おおさかナウ

2019年10月27日

「二重の逆流」――大阪の維新とのたたかい(上)

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 日本共産党大阪府委員会政策委員会からの寄稿文「『二重の逆流』」―大阪の維新とのたたかい」を、3回に分けて紹介します。

日本共産党大阪府委員会政策委員会

 日本共産党大阪府常任委員会は9月27日にアピール「維新との新たなたたかいを 大阪のすべての党員、支持者のみなさんによびかけます」をだしました。
 「維新」をめぐる「虚像」と「実像」をどうみるか。大阪で維新政治を打ち破る論戦とたたかいをどうすすめるか。10の角度で追います。

1 「虚像」と「実像」――維新はどう見られているか

 春の大阪府知事・大阪市長ダブル選挙で「大勝」し、府議会過半数、大阪市議会第一党を占めた維新。夏の参院選では定数4の大阪選挙区で2つの議席を得ました。
 大阪では安倍・自公政権による逆流とともに、維新政治による逆流、「2つの逆流」との激しいたたかいが展開されています。

支持者の目に映る維新の姿

 「私たちから見る維新」と「支持者の目から見た維新の姿」はまったく別――長年、大阪の政治や維新を取材してきたジャーナリストの吉富有治氏が、ダブル選挙後に語った言葉です。
 ある団体がおこなった1つのデータがあります。参院選直前、インターネットで府内1000人に政治意識を聞いたものです。
 注目した1つは、「安倍内閣支持層」「不支持層」ごとに政党支持を聞いたデータです。
 「安倍内閣支持層」のなかで政党支持の第一党は自民党ですが、次いで多いのは維新でした。同時に、「安倍内閣不支持層」に政党支持を聞くと、第一党は維新、続いて共産、立憲民主と野党が続きます。

「安倍内閣支持層」からも「不支持層」からも「受け皿に」? 

 ここには安倍政権に付き従う「補完勢力」としてだけではなく、支持者の目に映る「野党ポーズ」をとる維新の姿があります。その背景の一つに、大阪での政治対決構図を「維新vs自民」と描く、メディアの報道姿勢も横たわっています。
 このデータでもう一つ、注目したのは大阪で彼らがやってきたことの、何をどう評価しているかです。
 10数項目の「維新の実績」について尋ねると、「介護保険料の引き上げ」や「IR(カジノ)誘致」「住吉市民病院の廃止」などには厳しい目が注がれます。「都構想推進」や「府大・市大統合」なども評価は二分しています。
 ところが「二重行政の解消」「公務員の削減」「地下鉄民営化」「私立高校や幼児教育の無償化」などは7割前後が評価しています。
 「維新が大阪を変えてくれる」――安倍政権への不信・怒りのなかで、維新に「改革」を期待している支持者の姿が見えてきます。

カギ握る無党派層の動向

 しかし、大阪における維新の基盤は盤石なものではありません。大阪での国政選挙比例得票は、2012年総選挙での146万票をピークに、2017年総選挙では93万票まで下がりました(今回の参院選比例票は120万票)。さらに、大阪府民の「第一党」は「政党支持なし」層ですが、大阪での無党派層は「維新にはなびかなかった層」といってもよく、とくに「カジノ誘致」「都構想」などには「反対」が大半を占めます。
 この無党派層が多く参加した2015年の大阪市の住民投票(投票率65%)では「都構想反対派」が「都構想推進派」に打ち勝ちました。2013年、2017年の堺市長選挙でも「共同の勝利」が記録されています。

2 改憲と歴史認識

安倍政権との「改憲タッグ」

 10月9日の参議院本会議、維新の片山虎之助共同代表は、改憲論議の加速へ、「(憲法審査会への)自民党の正式な案の提出も必要だ」と安倍首相をあおりました。大阪では、知事就任直後、吉村洋文副代表が「憲法改正を一生懸命やらないのが自民党。情けない。ダイナマイトみたいにボカンと国会でやりたい」(4月12日寝屋川市で)。維新は、国会の中でも、外でも、安倍政権と「改憲タッグ」を組む姿をあらわにしています。
 橋下徹氏がその著書で「大阪万博への挑戦、カジノを含む統合型リゾート推進法(IR推進法)の制定…安倍政権の協力で乗り越えたことは多数ある。ゆえに、日本維新の会が安倍政権に必要な協力をすることは当然だ」とのべるとおり、安倍政権と維新は一蓮托生ぶりを露骨に示します。
 維新は「教育無償化」などを「改憲項目」にあげますが、ターゲットが9条にあることは隠せません。
 かつて維新の会が石原慎太郎・橋下徹共同代表だった時期、「日本維新の会」綱領には、「(憲法の規定は)絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶」としていました。
 橋下氏は大阪市長時代、「(東日本大震災の)がれき処理が進まないのも憲法9条が原因」などとのべ、松井氏は参院選でのインタビューで、「9条は国際情勢の現実に照らし合わせて議論していくべきで、『日米安保条約は不公平ではないか』という同盟国大統領の発言を知らんふりすることは政治家として無責任」とのべています。

度し難い憲法違反の数々

 安倍政権と同根という点では、歴史認識の問題があります。
 あいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展」で、維新の松井代表は展示が始まった9月1日、河村たかし名古屋市長に、「(少女像の展示について)どうなっているんだ」と電話。河村氏が翌日に現地視察し、「展示中止」を要請します。松井氏は、「慰安婦問題はデマ」、「日本で公金を投入しながら、我々の先祖がけだもの的に取り扱われるような展示物を展示されるのは違うのではないか」とさえ叫びました。こうした行為が憲法で禁じる「検閲」にあたり、「表現の自由」を踏みにじるものだと理解しようともしない維新の態度に、大村愛知県知事は「哀れ」と批判しました。
 歴史を学ばず、思想・信条の自由を踏みにじる維新の「根」は深いものがあります。
 大阪19区の元維新衆院議員・丸山穂高氏の「北方領土」問題での戦争発言を受けて松井氏は、「武力で領土を取り返すという考えは一切ない」としつつ、「言論の自由なんで…」と、丸山氏をかばいました。
 かつて橋下氏が市長時代、市職員の政治活動など内心の自由にまで立ち入る「思想調査」を行って府労委からも地裁からも断罪されました。橋下知事の友人でもある「民間校長」が卒業式の「君が代」斉唱時に本当にうたっているかどうかを「口元チェック」する――。
 維新は大阪での「改革実績」を饒舌に語りますが、口をつぐんで語ろうとしない本当の「実績」を語り広げなくてはなりません。

3 「くらしつぶし」「大阪市つぶし」―「都構想」に致命的欠陥

共同のたたかいでストップは可能

 4月のダブル選挙結果から、大阪のメディアは「2度目の住民投票は確実」などと書きます。
 しかし、“大阪市をなくし”“くらしをつぶす”「都構想」は、市民の共同で「ノー」を突き付けることのできるもの。「住民投票は許さない」「住民投票になっても否決する」展望は十分あります。

コスト増で住民サービスが低下

 「都構想」は、庁舎建設や職員増などで膨大なコストがかかり、くらしの予算が削られます。
 住民投票時に反対派は「公報」で、「大阪市の廃止・分割」で「お金がないから…事業や施設が廃止・見直されます」「敬老優待パス制度、子どもの医療費助成制度…商店街・中小企業対策など」と指摘しました。
 今年9月の法定協議会でも「(協定書に)住民サービスを低下させない。敬老パス…子ども医療費助成などの維持」明記を、との意見に松井一郎市長は「協定書に書ききっても、担保できない」と拒否しました。

「都構想」導入理由を自ら否定

 膨大なコスト増でくらしが削られる批判をかわすため維新は、今の大阪市役所に北区のほか、特別区域を超えて「東西区」と「南区」の一部を入れる「合同庁舎」にし、コストを減らすという珍論を言い出しました。
 「都構想」の理由=「ニアイズベター」を根本から崩す動きで「域内の拠点が分散し、間借りをするくらいなら、本末転倒では。財政的余裕がないならやめるべきだ」(新藤宗幸千葉大名誉教授)「何のために府と市の統合話を進めているのか疑問だ」(片山善博早稲田大大学院教授)と批判されています。(10月7日「毎日」)

大きな権限、財源を市民のために

 政令市の大阪市には大きな財源、権限があり、その力を「府」に吸い上げるのでなく、市民のために使うなら、福祉、教育、中小企業、防災対策は抜本的に拡充できます。

大阪市をつぶさせない―一点共同で

 住民投票では、地域振興会や商店会から「大阪市をつぶしたくない」との声がわき上がりました。
 その熱い思いは今も続いています。山中智子党市議団長は、議員団が行った「懇談会」で「法定協議会について報告しました」とフェイスブックに投稿したところ、ある連合町会長から「知りませんでした。私は中立の立場ですから、大阪市を守る立場でいろんな情報を得たいと思います。今後はお知らせください。時間が許す限り参加します」とのコメントをもらったとして、支持政党の枠を超えた「大阪市はなくさせない」一点での共同の大事さを強調しています。

4 カジノ誘致――府民の不幸を食い物に

「カジノ(IR)複合体」vs府民

 8月8日、日経新聞が主催した「統合型リゾートフォーラム・大阪」。自民党萩生田幹事長代理(当時)が「基調講演」をおこない、そこに吉村知事、松井大阪市長と関西財界・大企業、米カジノ事業者、吉本興業まで加わって、さながら「IR(カジノ)複合体」を組み、「2025年万博」と同時に「カジノ開業ありき」でひた走っている姿を示しました。萩生田氏は、カジノ事業者との「実施協定」では「30年の有効期間」を想定しているなどともうそぶきました。
 しかし、府内のどの世論調査を見ても、「カジノ大阪誘致」には多数が「反対」、とくに女性や「支持なし層」での反発は大きいものがあります。
 それは、何よりもカジノは庶民のふところから金を巻き上げ、人の不幸を食い物にして米カジノ事業者に貢ぐものであり、「成長のツール」(松井氏)、「(カジノを誘致する)夢洲は日本の成長の拠点になる」(吉村氏)どころか、災厄と負の社会・経済効果しかもたらさないからです。府市の「大阪IR基本構想案」はカジノで年間3800億円の売り上げと見積もりますが、これは掛け金総額から払戻金を引いたもの。府民の莫大な「損金」なしには経営がなりたたないのがカジノです。
 府は「ギャンブル依存症対策のトップランナーになる」といいますが、「対策」の中身は高校生向けに「カジノとの付き合い方」を「啓発」するリーフレットの配布など。ギャンブル依存症が犯罪誘発の一因になるなど、深刻化する大阪で、「カジノ誘致」は事態を際限なく拡大します。
 さらにカジノ用地とする夢洲の安全・環境対策にも大きな懸念が生まれ、野鳥保護団体、環境保全団体から反対世論と運動がすすめられています。
 さまざまな思惑から政府の「基本方針案」「管理委員会設置」が遅らされ、横浜市の動向をみて米ラスベガス・サンズ社が大阪から手を引くなどの事態も生じています。焦る維新の大阪府・市政は、政府の「基本方針」確定前の「事業者正式募集」や環境アセスメントの「大阪府・市代行実施」など何でもありの構えで、「一路カジノ」へと暴走しています。それは新たな矛盾と反発を招いています。
 大阪弁護士連合会もカジノ実施法制定前から反対の会長声明をだし、大阪誘致にたいしてさまざまな立場から論陣をはり、市民団体とも連携しています。「カジノ反対大阪ネットワーク」「カジノ反対大阪連絡会」などは10月22日に「カジノ・ストップ市民集会」を開きました。
 いまこそ「カジノより福祉・暮らし・子育て」「カジノより防災」の声を大きくし、「カジノ誘致断念」へと追い込む時です。(中はこちら

(大阪民主新報、2019年10月27日号より)

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