おおさかナウ

2018年04月29日

「特別区」と住民投票 問題点どこに
研究者が多角的に検証
――「豊かな大阪をつくる」学者の会シンポ

 大阪市を廃止して「特別区」に再編する、いわゆる「大阪都」構想をめぐり、維新の会が再度の住民投票を狙う中、「豊かな大阪をつくる」学者の会が4月21日、大阪市住吉区の大阪市立大学で「特別区」や住民投票の問題点などを学術的に検証するシンポジウムを開き、市民ら約150人が参加しました。当日の内容を詳しく紹介します。

「豊かな大阪をつくる」学者の会が開いた、「特別区」や住民投票を検証するシンポジウム=4月21日、大阪市住吉区内

「豊かな大阪をつくる」学者の会が開いた、「特別区」や住民投票を検証するシンポジウム=4月21日、大阪市住吉区内

 学者の会は、2015年5月の住民投票を前に、専門分野や立場の違いを超えて研究者が結成。市民が事実に基づいて判断し、投票できるようにしようと、「大阪都」構想の問題点を明らかにし、情報発信を行いました。

 住民投票で「特別区」設置が否決された後も、さまざまな形でシンポジウムを続け、今回で10回目。立命館大学の森裕之教授(地方財政学)と村上弘教授(行政学・地方自治論)、帝塚山学院大学の薬師院仁志教授(社会学)、京都大学大学院の藤井聡教授・内閣官房参与(公共政策論)が報告。参加者からの質問に答えながら討論しました。

財源奪われサービスは削減
「特別区」財政は〝無間地獄〟――立命館大 森裕之教授

偶数にしただけ

 森氏は、大都市制度(特別区設置)協議会(法定協議会)で議論されている「特別区」素案に即して報告。前回は5つの「特別区」を設置するとしていたが、今回は4区案に絞り込まれていることについて、「(区の数を)単に偶数にしただけで、まったく(維新が言う)バージョンアップになっていない」と批判しました。

 大阪市は政令指定都市として、港湾の管理や都市計画などで都道府県と同格の権限と、それに伴う財源をもっていると指摘。「大阪市が廃止されると、その権限・財源は府に吸い上げられる。『特別区』は府の従属団体になる。バージョンアップなどと言っても、これが本質だ」と語りました。

府が吸い上げる

 その上で、森氏は「『特別区』の財政制度は“無間地獄”への道だ」と強調し、仕組みを詳しく説明しました。大阪市が廃止されて「特別区」になれば、大阪市税の法人市民税・固定資産税・都市計画税は府税となり、大阪市への地方交付税相当額も府に入ります。

 この結果、大阪市の一般財源約8800億円のうち、4分の1近い約2100億円が奪われ、大阪市税約6600億円のうち、「特別区」に残るのは約1750億円にすぎず、4850億円は府税になると指摘。一般財源の減少に連動して、大阪市の歳入全体の約半分を占めている特定財源(国庫支出金や地方債)も減るため、奪われる総財源は最低でも約5千億円に上ることを示しました。

決定権限は府に

 府に吸い上げられた税源は「財源調整財源」として、府と「特別区」との間で配分されますが、「最終決定権限は府にある」と森氏。府と「特別区」との間で事務分担と財源配分をめぐり、不安定な政治的な争いが毎年繰り返され、「特別区」間での予算確保で争いが続くことに。「結果として『特別区』では、残された生活関連サービスが切り詰められていく」と警告しました。

詐欺的だった住民投票用紙
二重システムは都市の常識――立命館大 村上弘教授

法には廃止明記

 村上氏は2015年の住民投票で、「大阪都」構想が実現しても「大阪市は廃止されない」など「誘導された誤解」が数多く存在し、「住民投票用紙そのものが詐欺的だった」と切り出しました。

 「特別区」設置の根拠法である「大都市地域における特別区の設置に関する法律(大都市法)」の第1条には「関係市町村を廃止し」と明記。住民投票で「特別区」設置が賛成多数になれば、大阪市は廃止されます。

用紙には書かず

 ところが投票用紙には、「大阪市における特別区の設置についての投票」と記されており、大阪市が廃止されることは書いていませんでした。「ここから大阪市が廃止されることを読み取ることはできない」と村上氏。この投票用紙は、関係市町村の廃止を明記した大都市法1条、住民への分かりやすい説明を大阪市長に義務付けた7条2項に違反する可能性があると問題提起しました。

 さらに住民投票後のダブル選で、松井一郎知事も吉村一郎大阪市長も重要事項である「大阪市の廃止」を明言していないと指摘。選挙勝利によって「大阪都」構想の推進が有権者の支持を受けたとはまったく言えないと批判しました。

仕事を分担して

 また村上氏は、政令指定都市・大阪市は、府と比べてはるかに市民に近く、無駄な開発の失敗もあったが、豊かな税収と専門的で強い政策力で、都市基盤整備などで大阪の都市と生活を支えてきたと述べました。

 フランスのパリ市(イルドフラン州)、イタリアのミラノ市(ロンバルディア州)など先進国の大都市圏では、広域自治体と中心都市という「二重システム」をとるのが常識だと強調。「郊外を整備する仕事(府)と中心都市を整備する仕事(大阪市)を分担すべき。一つの円(府)にまとめてしまうと、大阪市域の意思は軽視されるか無視されてしまう」と語りました。

基本的な事実すら伝わらず
再度の住民投票実施は危険――帝塚山学院大 薬師院仁志教授

棄権も含め拮抗

 薬師院氏はまず、2015年の住民投票の結果を分析。投票率は66・83%と高かったが、「反対」33・53%、「棄権・無効」33・44%、「賛成」33・02%と僅差で拮抗しており、「どんな結果が出てもおかしくなかった」と述べました。

 2011年の大阪市長選(橋下徹氏が当選)と比べると、むしろ「65歳未満」の投票率が高く、特に「35~59歳」の投票率が高くなり、全体の投票率を押し上げたと指摘。住民投票後に流布された「高齢者票で反対多数となった」という解釈(シルバーデモクラシー)は誤りだと述べました。

簡単な事実すら

 薬師院氏は、京都大学大学院の藤井聡教授らの調査結果を紹介。住民投票では、「大阪都」構想が実現すると大阪市がなくなるという事実を理解していたのは、反対票を投じた人でも2割、賛成票ではわずか2%しかありませんでした。

 「一般論として投票率は関心の高さに比例するが、『大阪都』構想になれば大阪市が廃止されるという簡単な事実が伝わっていない」と強調しました。その背景には、事実の説明以前に、「特別区は東京と同じで権限が強いのだろう」「まさか大阪市がなくなるはずがないだろう」といった思い込みや先入観が、強く刷り込まれていたとしました。

納得した結論か

 「大阪市は存続するのか、消滅するのか」という基本的な事実の説明を繰り返さなければならないようでは、まともな住民投票は不可能だと力説。「大切なことは、関心の高さが理解度と比例しない中で住民投票をやってしまった。2度目の住民投票で同じことが起きれば、どんな結果が出るか分からない。市民が理解し、自分たちが納得した上での結論にはならない。都合の悪いことを隠すのが『バージョンアップ』と宣伝するような、いまのような状況の中で2度目の住民投票をやるのは、極めて危険だ」と訴えました。

住民投票の危険は消えない
「大阪市は廃止」と繰り返し――京都大学大学院 藤井聡教授

支持率低下だが

 藤井氏は、世論調査で「大阪都」構想への支持率が下落し続けている一方、すでに設置された法定協議会で議論が行われ、再度の住民投票が強行される危険は消えていない中で、学者の会の取り組みも継続してきたいと表明しました。

 橋下徹氏が府知事に就任した2008年以降、府の財政が緊縮して景気が落ち込んでいることなどを報告したのに続き、自らの研究室で取り組んできた「大阪都」構想をめぐる意識動向調査(サンプル数310)の結果を紹介しました。

正解は8・7%

 それによると、「『大阪都』構想が実現すると大阪市はどうなると思いますか」との質問に、「廃止されて消滅する」と正解したのは8・7%で、反対に「政令指定都市のまま残る」が25・5%。「廃止されるが、大阪市と同じ力を持つ5つの特別区が設置される」が35・8%、「政令都市ではなくなるが、今のまま残る」との回答も6・5%ありました。

 これを「大阪都」構想の賛否別にみるとどうなるか。住民投票で「反対」に投じた人のうち、「大阪市は廃止されて消滅する」と回答したのは20・6%でした。これに対し、「賛成」に投じた人で正解はわずか2・0%。「廃止されるが、大阪市と同じ力をもつ5つの特別区が設置される」(46・0%)、「政令指定都市のまま残る」(28・7%)合わせて74・7%に上り、事実が理解されない中で住民投票が行われたと振り返りました。

真実に力がある

 藤井氏は、「廃止されて消滅する」と正解した人のうち、87・5%が住民投票で「反対」に投じていることを指摘。「大阪が好きだから反対した人もいれば、好きでも嫌いでもないが、真実を知って『それは駄目だ』と思った人もいるだろう。真実の力は相当ある。(「大阪都」構想で)大阪市が廃止されるということを、ありとあらゆる機会を通じて言い続けることが大事」と語りました。

(大阪民主新報、2018年4月29日・5月6日合併号より)

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