差別解消どころか永久化
利権狙う「部落差別解消推進法案」
運動で必ず廃案に 民権連が学習会開く
前国会の最終盤に突然議員立法で提案され、衆院で継続審議となっている「部落差別永久化法案(部落差別解消推進法案)」を必ず廃案に追い込もうと、民主主義と人権を守る府民連合(民権連)が緊急学習会を開催。衆院議長・衆院法務委員長宛ての要請署名などに取り組んでいます。
共産党・清水衆院議員が報告
乱脈同和復活へ根拠づくり
7月30日に民権連が大阪市西区内で開いた緊急学習会では、日本共産党の清水忠史衆院議員(衆院法務委員)が国会報告。議会運営のルールを無視して法案が提出された経過を詳しく振り返りながら、強行成立を狙う動きに対して民権連はじめ国民の世論と運動、日本共産党の議席があったからこそ強行成立を阻み、継続審議に追い込むことができたと語りました。
5月の衆院法務委員会でただ一人質問した清水氏は、論戦のポイントを紹介しながら報告。同和対策特別法は2002年3月末で終了した理由について、総務省は同和地区をとりまく状況が変化し、差別解消のため特別対策の継続は有効でないとした当時の政府答弁を説明。「同和行政の新たな根拠法の制定が狙い。乱脈不公正な同和行政を復活させる根拠を与えるもの」と指摘しました。
また法案には「部落差別」の言葉が定義なしに使われていますが、清水氏の質問に提案者の自民党議員は、「法律上の定義を置かなくても、部落差別の意味は極めて明快」とし、公明党議員も「多くの国民が実感している」などと答弁しています。
清水氏は「法律なのに人の主観で決めていいとなれば、際限なくこの法律の乱用を生み出しかねない。同和対策事業の復活や、確認・糾弾活動の根拠となり得るものだ」と強調。問題点と危険性を浮き彫りにして、必ず廃案に追い込む決意を語りました。
「解同タブー」の再来を招く
法案の問題点について講演した石川元也弁護士は、部落差別事象は明らかに減少しており、「新法案を必要とする立法事実はない」と断言。インターネットなど情報化の進展の中で差別事象が認められるとしても、そのために特別法を新たにつくる必要はないと述べました。
石川氏は、そもそも行政の原則として、国民の一部をその「属性」(部落民など)を理由に対象とする特別立法は許されないと指摘。同和対策特別法はこの原則の例外として施行されたが、「部落解放同盟(解同)」の部落排外主義・部落絶対主義による暴力介入で、行政の主体性が侵され、社会的にも「解同タブー」が増進し、自由の意見が妨げられたと語りました。
石川氏はこうした事態への反省から、政府機関の地域改善対策協議会(地対協)の意見具申(86年)や、政府の「啓発推進指針」(87年)などが作成され、特別法終了後も「解同」の「部落解放基本法」制定要求にも、政府として応じることがなかったと強調。「それを議員立法で制定して、政府の確立してきた行政原則をねじ曲げることは許されない。この法案を許せば、『解同タブー』の再来を招き、言論表現の自由、思想・内心の自由に対する侵害を招きかねない」と警告しました。
部落問題解決の歴史に背く
民権連の谷口正暁委員長は、矢田事件以来の大阪の運動を振り返りつつ、同和対策特別法終了から14年が過ぎた今日では部落問題を意識することはなく、「『そんなん関係ないわ』ということになってる。むしろ問題を意識させているのは行政の研修・教育・啓発だ」と語りました。
谷口氏は特別法終了後には、大阪では「同和向け公共施設」の廃止など「特別対策」の見直しが進み、府当局も特別対策事業の前提となる「地区指定」がなくなり、同和対策事業の対象となる地域・住民は存在していないと回答(昨年12月)していると強調。「部落問題解決の歴史に背を向け、『確認糾弾』『利権あさり』復活のための根拠法づくりを狙う『部落差別永久化法案』は必ず葬り去ろう」と呼び掛けました。
自公民が議員立法で
秋の臨時国会で成立狙う
前国会の閉会を6月1日に控えた5月19日、自民、公明、民進の3党が議員立法で「部落差別の解消の推進に関する法律案」を衆院に提出しました。ことし3月、自民党内に「部落問題に関する小委員会」が設置され、法務省、「部落解放同盟(解同)」、自由同和会などからヒアリングをまとめて法案化したもので、背後には自民党の二階俊博幹事長の強い意向があるとされています。
法案の第1条では「現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」とし、「部落差別の解消」へ「相談体制の充実」「教育及び啓発」「実態調査」について国と地方自治体の「責務」を定めています。
自民党などは正式提出前の18日の衆院法務委員会の理事会で「協議事項」として持ち出すという前代未聞のやり方で、5月20日には趣旨説明を強行。会期内の成立を目指して、同日の理事会では25日に質疑を終結し、即日採決するという日程が決められそうになりました。
これに対し、全国地域人権運動総連合(全国人権連)、民権連、自由法曹団などが緊急声明を発表し、法案に反対する要請活動を展開。衆院法務委員会の理事会にオブザーバー参加している日本共産党の清水衆院議員(法務委員)は、一方的な委員会運営に抗議し、法案提出に反対するとともに、25日の委員会ではただ一人質問に立ち、「同和問題の解消に血のにじむ努力を続けてきた方々を裏切る法案であり、絶対に許せない」と廃案を求めました。
諸団体の反対運動や日本共産党の論戦・活動で自民党などが狙った25日の質疑終結・採決は見送られ、継続審議となりました。秋の臨時国会での成立が狙われ、緊迫した局面になっています。
(大阪民主新報、2016年8月14日付より)