おおさかナウ

2025年08月02日

問われる国・府・万博協会の責任
大阪万博パビリオン 工事費未払い続出
「いのち輝く」に逆行

 10月13日の閉幕まで2カ月余りとなった大阪・関西万博。来場者数が順調に伸びているとして、万博協会が成功ムードを強調する一方、海外パビリオンの工事費未払い問題が下請け業者を直撃。「いのち輝く未来社会のデザイン」の万博テーマに逆行する深刻な事態が広がっています。

来年アジア競技大会で特命随意契約
世界最大手イベント会社が踏み倒し

「来場者満足」でいいのか

会見で未払いを訴える業者=6月13日、大阪市内

会見で未払いを訴える業者=6月13日、大阪市内

 万博の中でパビリオンは、「万博の華」とも「万博の顔」とも言われてきました。万博協会の十倉雅和会長は、開幕から2カ月余り経った6月23日、万博会場内で開いた会見で、「アンケートの結果からも、多くの来場者がパビリオンやイベントに満足し、また万博に行きたいとの意向を示している」「2カ月で良いスタートを切れた」と自慢げに報告しました。
 ところがそのパビリオンの建設で、これまでに、ネパール、アンゴラ、マルタ、中国、ルーマニア、セルビア、アメリカ、インドなどの各館で、下請け業者への工事費未払いが次々に発覚。「万博工事未払い問題被害者の会」によると、この他にも複数のパビリオンで被害が発生しています。
 全国商工団体連合会(全商連)が開設した「大阪万博工事代金未払い110番」には、7月15日までに近畿、東海、関東、中国地方から、総額3億円を超える未払い被害と共に、深刻な資金繰りの危機に直面している実態が寄せられました。
 これまでに未払いが発覚している8つのパビリオンのうち、マルタ、ルーマニア、セルビア、ドイツ館の建設の元請けは、世界最大手のイベント会社GLイベンツです。同社は来年、愛知県で開かれる第20回アジア競技大会を、630億円で特命随意契約しています。

業者に協力懇願してたのに「当事者の問題」と切り捨て

2023年12月に万博協会が作成した「海外パビリオン建設にかかるご協力のお願い」のリーフレット

2023年12月に万博協会が作成した「海外パビリオン建設にかかるご協力のお願い」のリーフレット

 未払い問題で犠牲になっているのは、要請を受けた事業に真面目に参加してきた下請け、孫請け、ひ孫請けの業者です。
 海外パビリオンの工事への参加について被害者は、口をそろえて「国家事業だと思って信じてやってきた」「未払いが起こるなど夢にも思っていなかった」と言います。
 万博協会は、海外パビリオンの建設業者が決まらない中、2023年12月には、建設事業者を対象に「海外パビリオン建設にかかるご協力のお願い」のリーフレットを作成し、「出展国または元請け施工者からの依頼が届いた際には積極的な受注協力を」と呼び掛けました。
 そこでは、「万博の顔となる海外パビリオン建設プロジェクトにおける皆様のご参画は、万博を成功させるために必要不可欠」と述べ、工事が円滑に進むよう、施工環境の向上策に早急に対応するとした上で、「何卒ご協力のほどお願い致します」と懇願しました。
 ところがその万博協会が、未払いを訴え始めた業者に対して、手のひら返しのように、「当事者間の問題」「民民の問題」だとして、救済措置を拒み続けています。
 大阪府も、「被害者の会」が6月、吉村知事宛てに早急な救済措置を求めて提出した要望書に対して、「建設業者間の未払い問題は、当事者同士で解決していただくことが基本」と返しました。
 未払い被害がますます広がる中、全商連が7月16日に行った政府要請には、被害者と共に日本共産党の大門実紀史参院議員、辰巳孝太郎衆院議員も参加し、救済措置を訴えました。
 多額の税金をつぎ込んだ国家事業で、工事費未払いなど絶対にあってはなりません。事業者の生活、営業、命を守るため、国、府、万博協会は、問題解決とともに、未払いの原因究明に全力を挙げるべきです。

未払い問題のあるパビリオン

・マルタ館  ・ルーマニア館 ・ドイツ館 ・セルビア館 ・アンゴラ館  ・アメリカ館
・中国館   ・インド館

マルタ館

マルタ館

ルーマニア館

ルーマニア館

セルビア館

セルビア館

アンゴラ館

アンゴラ館

 

 

 

 

奴隷のように働かされた挙句1億2千万円不払い

 マルタ館を巡っては、一次下請けがGLイベンツに、未払い金約1億2千万円の支払いを求め、6月、東京地裁に提訴しました。
 同館は昨年12月9日、各国が独自にデザインする「タイプA」パビリオン(47カ国)のうち、最後に着工しました。「本来、昨年夏には取り掛からなければ、開幕に間に合わないものだった」と原告会社の社長Aさんは言います。
 今年1月末、GLイベンツが建物を建てた後、原告会社が外装・内装工事を開始。ところがGLイベンツ側が確定図面を示さず、具体的な内装塗装の仕様指示もしない中、工事は難航。3月に入ると、開幕直前期間として施工車両が会場に入れなくなり、建具も車で搬入できず、業者から受注を断られるなどしました。
 開幕まで1カ月余りしかない中、GLイベンツは原告会社に24時間体制で毎日働くよう求め、監視カメラで24時間、現場の様子を記録。Aさんも不眠不休、食事もまともに取れない日が続きました。「まるで奴隷。地獄のような日々だった」とAさんは言います。
 マルタ館は4月11日ごろ竣工し、13日の開幕当日には無事、開館しましたが、GLイベンツは原告会社への支払いを拒否。自らの図面・指示、工事の遅延などを棚に上げ、途中工程の遅れの原因を原告会社の「契約不履行」にあると主張し、請負代金と追加工事費の計1億2千万円を支払っていません。

間に合うようにと協力したのに2億円以上未払い

 ウズベキスタン、ルーマニア、セルビア、ドイツのパビリオンの工事に関わった会社の役員Bさんは、スイス資本の会社が元請のウズベキスタン館の工事中に、GLイベンツの代表S氏と出会いました。その工事が終わり次第、万博の仕事を終えようと思っていたところ、GLイベンツが元請のルーマニア館の本体工事とセルビア館の工事を頼まれ、昨年10月、現場に入りました。
 ルーマニア館に入っている時に、「ドイツ館を助けてくれ。何とか頼む」とS氏から、電気工事と共に応援部隊の大工を入れるよう頼まれました。断るBさんにS氏は、「愛知のスポーツの祭典があるから、やらないか」と、来年の第20回アジア競技大会も引き合いに出し、強引に頼んできました。GLイベンツはこの後、同大会の特命随意契約を630億円で締結します。
 間に合わせなければとの思いで協力した結果、Bさんを待っていたのは多額の未払いでした。とりわけGLイベンツの代表S氏がフランスに帰った後は、まったく払われなくなり、セルビア館は約3千万円、ルーマニア館は1億6千万円、ドイツ館は1千万円が未払いとなりました。
 ドイツ館の応援部隊の人件費として200万円だけ振り込まれたのは、開幕から2カ月以上経った6月20日。Bさんが、会見など公の場で、GLイベンツの未払いを訴えるようになってからのことでした。

協力者が連鎖倒産の危機 全てを差し出したけれど

 中国館では、中国資本の元請けによる1次下請への未払いが発覚。2次下請けの電気設備会社が約6千万円の未払いを訴えた後、一部が支払われましたが、今も未払いが残っています。
 イギリス資本の元請け会社が建設したアメリカ館では、内装工事に 関わった3次下請けの会社が2800万円の未払いを訴え。再三の請求に断続的に振り込んできた2次下請けは、5月に破産手続開始の通知をしてきたといいます。
 スペインのイベント会社が元請のアンゴラ館では、1次、3次下請けに建設業無許可業者を入れ、3次下請けが建設業法違反で営業停止処分に。さらに同社の経理担当者が、1億2千万円を横領したとして、社長が告訴するなど刑事事件に発展しています。
 「被害者の会」代表で、アンゴラ館の工事に4次下請けで入った会社社長Cさんは、「未払いを理由に融資も受けられず、私の会社だけでなく、協力してくれた会社も連鎖倒産の危機にある。何度か自殺も考え、保険金で仲間たちを助けることも考えた。家庭も崩壊しつつある」と話します。
 大学の学費を払えなくなり、息子が大学をやめざるを得なかったという業者、会社が持つ土地を数億円で売り払い、他の業者への支払いに充てた業者も。マルタ館工事を請け負ったAさんも、「差し出すものはすべて差し出した。最悪のことも考えた」と声を震わせます。

(大阪民主新報、2025年8月3日号より)

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