大阪・関西万博
今度はレジオネラ菌
指針値の20倍を検出
開幕2カ月足らずの大阪・関西万博で、また新たな問題が起きました。引火すると爆発の危険性のある高濃度のメタンガス検知、ユスリカ大量発生に続いて、今度は、噴水ショーなどを行うウォータープラザと、静けさの森で子どもたちが水遊びをする水盤(人工池)から、発熱や肺炎の原因となるレジオネラ菌が高数値で検出されたことが分かりました。
菌検出後も公表せず
水上ショーや水遊びを継続
ウォータープラザでは、5月29日に大阪市保健所がレジオネラ菌を検出したと万博協会に報告。協会の自主検査で指針値の1・6倍検出されましたが、結果を公表せず水上ショーを継続。今月4日には20倍のレジオネラ菌を検出したとして水上ショーを中止しました。
一方、静けさの森は、保健所が3つある水盤のうち、南側で5月19日に採水、28日に指針値の20倍のレジオネラを検出し、万博協会に報告しましたが、翌29日夜まで子どもの水遊びを放置。その後、立ち入り禁止にして水を抜きました。高数値の菌の検出を発表したのは、今月5日でした。
感染で死に至る場合もある
レジオネラ菌は、自然界に存在する菌で、感染して肺炎を起こすと重症化し、死に至る場合もあるといわれています。
5日の会見では、静けさの森の水盤の排水や菌検出の公表、立ち入り禁止の措置が遅れたことについて、記者から質問が集中。協会側は、採水から検査結果が分かるまで10日ほどかかるとした上で、5月28日に保健所から受けたのは速報値であり、「確定するまで待っていた」「今のところ被害は聞いていない」「28日の通知では、直ちに立ち入り禁止にせよという助言はなかった」などと述べました。
早く措置を取るべきだった
9日の会見で石毛博行事務総長は、保健所からの報告の後、すぐに立ち入り禁止の措置を取らなったことについて、「来場者に不安を与えた」と謝罪し、「措置を早く取るべきだった」との見解を示しました。
協会側は、記者からの質問に対し、万博で水上ショーを見た後に体調が悪くなり、肺炎と診断されたとの連絡を来場者から受けたことを認めました。その上で、医師の診断で、万博のイベントと症状との因果関係が認められた場合、検査費や治療費などをさかのぼって支払うとしました。
その後、さらに高数値のレジオネラ菌を検出。来場者数の増加を追求する一方、人命にまで及ぶ問題への対応の遅れに、改めて協会の責任が問われます。
水を巡る問題は今後も続く
大阪市民ネットワークの藤永のぶよ代表は、「大量発生しているユスリカもレジオネラ菌も、海や川のしゅんせつ土砂の埋め立て途中だった夢洲を、会場にしたからこそ発生する環境衛生問題。ウォータープラザには、会場全体の水が流れ込む汚水管がつけられており、今後も水を巡って、さまざまな問題が起きる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
驚く危機管理意識の低さ
元大阪市水道局水質試験所職員
保健所を守る大阪市民の会幹事
中村寿子さんに聞く
万博会場の水から指針値を超えるレジオネラ菌が検出されたことと、万博協会の対応について、保健所を守る大阪市民の会幹事で、元大阪市水道局水質試験所職員の中村寿子さんに話を聞きました。
レジオネラ菌は、土壌や河川、湖沼など自然界に普通にいる細菌グループで、アメーバなどの細胞の中で増殖するといわれています。しかし、川遊びでレジオネラ菌に感染したという話は聞きません。
レジオネラ菌の増殖事例や健康被害の記録があるのは、温泉、噴水、浴室の気泡発生装置、加湿器、水冷式空調機などの人工的な水環境です。「レジオネラ菌存在の可能性」のサインは、浴槽や水を送る管内面の微生物分泌物である「ぬるぬる(バイオフィルム)」の存在です。
レジオネラ菌の感染は、菌に汚染されたエアロゾルの吸引や、その水を誤嚥した場合に起こります。人から人への感染はありません。多くの場合、1~2日後に寒気・発熱・筋肉痛などの風邪症状で済みますが、高齢者や免疫力の弱い人では、2~10日後に高熱、意識障害などを伴うレジオネラ肺炎を発症することがあります。今年2月に行われた第5版レジオネラ症防止指針の研修会資料によると、「レジオネラ症の死亡率は現在約4%」とあり、あなどってはいけない感染症です。
万博協会は、保健所から連絡を受け、直ちに水の使用を停止すべきでした。ウォータープラザの場合、5月29日に保健所からレジオネラ菌検出報告を受け、「自主検査」で時間を費やし、水上ショー中止は6月4日。参加者の中で風邪、肺炎に罹患した人はいなかったでしょうか。静けさの森では検出を認識した日の2日後朝に立ち入り禁止。水遊びした子どもたちは大丈夫だったでしょうか。
環境水中のレジオネラ菌の一般的な検出方法は培養法で約1週間かかりますが、翌日に結果が出る遺伝子検査(PCR検査)も行うと、迅速な対応に役立ったはずです。
レジオネラ菌増殖防止の要は、水循環装置の丁寧な洗浄と消毒剤の保持です。大阪市の「旅館、公衆浴場の入浴施設及び遊泳場の採暖槽等におけるレジオネラ属菌検出時及び患者発生時の対応指針」に、「浴槽水等の遊離残留塩素(消毒剤)濃度を測定し、0・4㎎/L以上を確保していることを確認…浴槽水等の水質検査を行う」と記されています。この方針に従って対応すればよいのではありませんか。
国立感染症研究所は去年1月に「大阪・関西万博に向けての感染症リスク評価」を発表。その中でレジオネラ菌とその感染症を指摘しています。
「保健所を守る大阪市民の会」は同年10月に大阪市と懇談し、レジオネラ菌のリスクに言及しました。協会は、国や市民から、レジオネラ菌のリスクを指摘されていながら、有効な対応を行いませんでした。危機意識の低さに驚きます。
協会は、海外パビリオンで使う水は検査しないと会見で言ったそうですが、無責任です。会場で使っている飲料水や洗浄水は、水道水を貯水タンクにためて使う「専用水道」で、管理責任は万博協会です。適切なタンク水量管理と、末端における消毒剤の検査が不可欠です。
(大阪民主新報、2025年6月8日号より)