おおさかナウ

2022年06月11日

対談
たつみコータローさん
木村元彦さん

知恵と力を注ぐべきは平和の秩序どう築くか
たつみコータローさん

 1976年、大阪府生まれ。2001年、紛争地「コソボ」の高校生を日本に招聘する活動に参加。2013年の参院選で初当選。挑んだ論戦は200回。22年参院選大阪選挙区候補。

オシムから学んだのは寛容と多文化への尊敬
木村元彦さん

 1962年、愛知県生まれ。ジャーナリスト。アジア・東欧の先住民問題を中心に取材。著書は『悪者見参』『終わらぬ民族浄化』『オシムの言葉』(集英社)など多数。

 アジア、東欧などの民族問題を中心に取材し、「オシムの言葉」「終わらぬ『民族浄化』セルビア・モンテネグロ」(集英社)などの著者としても知られるジャーナリストの木村元彦さんと、日本共産党のたつみコータロー前参院議員・大阪選挙区候補が対談。話題はそれぞれの立場から関わって来た「コソボ」の話から始まって…。

木村 旧ユーゴスラビアのセルビア共和国の自治州だったコソボの取材をライフワークにしてきました。2001年に首都ベオグラードで会って仲良くなった日本人が、国連ボランティアとして活動していた、たつみさんのお兄さん(知行さん)でした。「弟が国会議員になった」と聞いて、NGO(非政府組織)関係者の友達からも、「自民党なんか誰も話を聞いてくれない中で、たつみさんはものすごく熱心に話を聞いて動いてくれた」と耳にするように。国会中継を見ていても、しっかり調べ、的を射た質問でアプローチする人だなあと思っていました。
たつみ 実は、私が政治の道に入るきっかけとなったのがコソボだったんですよ。
木村 そうなんですか。
たつみ 兄が01年9月に、紛争地コソボからセルビア人の高校生を日本に連れて帰るから準備してくれと言ってきたんです。映画監督を目指してアメリカに留学して帰って来て、映像関係の仕事をしていた時です。

戦争は憎しみの連鎖を

木村 その時、セルビア人の高校生は本当に気の毒なことに、コソボで孤立していました。高校生ということは、NATO(北大西洋条約機構)軍によるセルビア空爆の記憶が生々しい世代ですね。拙著『悪者見参』に書きましたが、あの空爆は、ミロシェビッチ大統領(当時)によるアルバニア人迫害に対するものだとされていたのですが、実際は、NATOの基地を旧ユーゴ全土に展開するように言われ、ユーゴ政府が拒否したことに対して行われたものでした。
 他国から侵略されたらみんなで戦うという名目の軍事同盟の域を超え、国境を飛び出して他国を空爆する流れの最初が、あの空爆でした。
たつみ コソボの高校生がまず知っていたのが広島でした。ずっと戦地で暮らし、多少のことには驚かないだろうと彼ら自身も思っていたようですが、1発の爆弾で10万人以上が亡くなったことを広島の原爆資料館で知って、びっくりしていました。9月11日、アメリカの同時多発テロを一緒にテレビで見ていると、彼らは映像を見ながら拍手したんです。
木村 よく分かります。セルビア人にとってアメリカは侵略者ですから。
たつみ NATO軍に攻撃された彼らにとって、アメリカがああいう事態になるのは因果応報だと映ったんですね。戦争は憎しみの連鎖をつくるのだと改めて感じたのが、私の政治への道のきっかけとなりました。
木村 たつみさんの政治家としての原点がそこにあったというのは、非常に興味深い。アメリカの暴挙は、イラクやアフガンの問題などで日本国内でも問題視されてきましたが、その前に国連を迂回して大きな人道破綻を行ったのが、1999年のユーゴ空爆でした。

民族異なる選手率いて

たつみ 先月、サッカー日本代表チームの監督だったイビツァ・オシムさんが亡くなられました。朝日新聞に追悼文を寄稿されていましたが、オシムさんとはどういうつながりだったんですか?
木村 崩壊した旧ユーゴのエリアを回った時、各地域のサッカーシーンを取材していく中で、「最高の選手は?」と聞くと、みんな自分たちの民族の選手の名前を上げるのですが、「最高の監督は?」と聞くと、口をそろえてオシムだと言いました。
 この人は民族や政治を超えた存在だと感じて会ってみたいと思い、ご本人がいるというオーストリアのグラーツに行こうと思っていた矢先に、ジェフ市原の監督就任の話を聞き、すぐ会いに行きました。
たつみ そして「オシムの言葉」を出版された。
木村 オシムは、民族の異なる選手が多数存在するユーゴ代表のチームを率いていました。自身の故郷でもあるボスニアの首都サラエボが包囲され、取り残された妻と息子と2年半、会えない日が続き、自身も暗殺される可能性もありました。それでも寛容と多文化へのオマージュ(尊敬)を持ち続けた人でした。
 ある時、僕が、そういう経験を経たから眼力とシャープな思考が磨かれたのですかと聞いた時、オシムは「そういう面はあったとしても、絶対にそうは言いたくない。戦争がいいものにされてしまう」と語りました。この人は本当に丁寧に言葉を使う人だと思いました。
たつみ 重い言葉ですね。戦争を経験しなければ分からないことはもちろんあるでしょうが、経験していなくても分からなければいけないし、学ばなければいけない。
木村 オシムを見て、信の置ける人間がいたら外交で戦争は防げる、止められると思いました。

過去の歴史と向き合う

たつみ 今、ウクライナ問題に乗じて、自民党や維新の会が9条改憲や「核共有」の議論を、などと言ったりしていますが、右であろうが左であろうが、何党であろうが、日本の政治家として最低限持っていなければならない資質があると思います。過去の侵略戦争の歴史に向き合い、反省することです。
 日本の政治家としての資格も資質もないような人たちが、戦争をあおっていること自体が非常に危険だと思うんです。
木村 ウクライナとロシアの件も、国対国の対立軸で見るのは非常に危険です。ロシアの人たちが全員プーチンを支持しているかというとそうではないし、戦争に行かされている人も被害者、苦しんでいるのは市民です。
たつみ 弾圧されながらも勇気を持って声を上げている人もいる。プーチンが一番恐れているのは国内外の世論です。ベトナム戦争も、ベトナムの人たちの粘り強いたたかいと、アメリカ国内を含めた世界の反戦世論が戦争を終わらせました。
木村 今、日本の共産党はロシアとのパイプはどうなっているんですか?
たつみ ないです。志位委員長が入国禁止者リストに入ってるぐらいですから。
木村 一番たたかってきた党ですからね。
たつみ 60年代にスパイまでつくって分裂させようとしたことに対し、党の存亡懸けてソ連とたたかってきたんですから。
木村 中国ともね。

国連憲章は人類の知恵

たつみ ユーゴもいろんな民族があるけれど、仲良く暮らしていこうというのが人類の知恵だし、他国の領土は侵略しない、侵害しない、主権を守る、独立を守るという国連憲章こそがルールだと思うんです。そうでないと、武力で力を支配できる社会になってしまう。
 街頭で宣伝していた時、高校生から「どうすれば戦争がなくなるんですか」と聞かれました。武器があるから戦争が起こる。一番大事な仕事は外交戦略、外交ビジョンだと思いますが、自民党や公明党にはそれが全くなく、軍事費を増やせとか、どこが危ないという議論しかされない。平和の国際秩序をどう築いていくのかに知恵と力を注ぐべき時に本質的な議論がされないのは、非常に残念なことです。
木村 平壌(ピョンヤン)を取材したことがありますが、北朝鮮では自民党の幹事長だった金丸信へのリスペクトがすごかったです。当時はパイプを持った上で、一定のルートができていた。
 安倍元首相はプーチンと20何回ごはんを食べたと自慢しているけれど、単なる「ATM」(金を払う)にされていただけ。北方四島返還問題も、「二島返還」に後退させた。彼こそ売国奴です。北方四島を返せと一番言ってきたのが共産党ですね。

戦争に反対した共産党

たつみ なぜうちの党が千島列島含めて全部返せと言えるのかというと、戦後処理の問題に関わるからです。千島は戦争で奪ったものではなく、交換条約で平和裏に日本領に編入されたもの。1951年に日米間で結ばれたサンフランシスコ条約に、アメリカ側の要求で「千島放棄条項」が入れられました。自民党はケチをつけられないけれど、共産党はあの戦争に反対した党だからこそ、そこまでさかのぼってメスを入れられるんですね。
 2014年のロシアによるクリミア併合に欧米が経済制裁をかけた時も、当時の安倍首相は経済協力を行いました。それがプーチンを増長させた要因の一つになった。
木村 おっしゃる通り。ミャンマー問題も見ておく必要があります。
 国軍幹部も言っていますが、ミャンマーの国軍をつくったのは日本政府です。国軍を増長させ、今も続けさせている。国軍はロヒンギャの女性たちへの性暴力を繰り返し、サッカーの代表選手まで撃ち殺しました。去年のワールドカップ予選の日本代表戦で、抗議の三本指を掲げたピエ・リヤン・アウン選手が政治亡命したのも、そういう背景でした。

期待したいのは赤旗砲

木村 日本共産党に期待したいのは「赤旗砲」。今回も桜を見る会前夜の後援会パーティーに、サントリーが無償で酒を提供していたことを出しました。
たつみ あれはうちだけが持っていた資料ではなく、東京地検の事件記録に載っていた電話番号にかけたらサントリーだった。桜を見る会に赤旗記者は参加したことがありませんでしたが、おかしいと思い調べてみたら、あんなふうになっていたんですね。一般のメディアが見過ごすことも、権力を監視するジャーナリズムの姿勢で見ると見えてくるものなんです。
木村 リークしたいときは「赤旗」に、ですね。
たつみ 森友問題の追及でも、リークしていただいた情報がたくさんありました。他党に渡してももみ消されるかもしれないし、質問してくれるかどうかも分からない、ここならと信頼して情報を寄せてもらえる。これ以上ネタがないと言っている時に、録音テープや文書が入ってくるんです。権力の傍にいる人も含めて、森友事件の真相解明や間違ったことを正したいという人に助けられながらの追及なんですね。
 国は妻の赤木雅子さんが起こした赤木裁判を、1億円も出して認諾して強制的に終わらせました。1億円で疑惑にふたをした。この問題も国会に戻って絶対に追及したいと思います。

(大阪民主新報、2022年6月12日より)

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