おおさかナウ

2022年04月30日

新自由主義乗り越え未来開く公教育を
鈴木大裕さん たつみコータローさん
公教育の現状と再生の展望語る

 未曽有のコロナパンデミックは医療や保健、暮らしと経済など多くの社会矛盾を浮き彫りにしました。危機を拡大させた「新自由主義」の転換が叫ばれる中、最も弊害を受けてきた「公教育」の現状と再生の展望について、教育研究者で高知県土佐町議の鈴木大裕(すずき・だいゆう)さんと、日本共産党前参院議員のたつみコータロー(辰巳孝太郎・参院大阪選挙区候補)さんに語り合っていただきました。(司会は編集部)

10代で人生変えた米国留学

鈴木大裕さん 教育研究者 高知県土佐町議
【鈴木大裕さんのプロフィール】
 1973年生まれ。スタンフォード大学教育大学院修了、08年に再渡米しコロンビア大学博士課程を修了。19年4月土佐町議(無所属)に初当選。

【編集部】10代でのアメリカ留学という共通体験があるお2人に、渡米の動機や留学生活のエピソードをお聞きしたいと思います。
鈴木 16歳でアメリカの高校に編入しました。
たつみ かなり早いですね。
鈴木 今思えば中学生の時から将来へのもやもやした気持ちがあったんです。高校生活は楽しかったのですが、大学進学、そしてサラリーマンという、日本社会が提供する一般的な未来像に魅力を感じられずに留学を決めました。このままではユニークな存在になれないと思ったのです。
たつみ 高校卒業と同時にアメリカに渡りました。映画監督になりたくて、本場のアメリカで映像や芸術を学ぼうと渡米しました。
鈴木 どちらですか?
たつみ 最初の2年はテネシー州の大学でリベラルアーツ(一般教養)を履修しました。アメリカ南部のバイブルベルト(聖書地帯)と呼ばれる保守的な地域です。
鈴木 日本人は少なかったのではないですか?
たつみ はい、自分自身がマイノリティーだと意識せざるを得ない状況で、言葉の壁を乗り越えることからスタートした留学生活でした。

マイノリティーになった経験が

鈴木 16年の留学生活で1番良かったことは、自分がマイノリティーになる経験をしたことです。
たつみ 日本にいてはなかなか気付けない課題が見えますね。
鈴木 全寮制の高校で日本人は私1人。常に日本人「代表」として見られ、「日本人とは何か」と自己のアイデンティティーを強烈に意識するようになりました。
たつみ 10代で「自由の国」アメリカの建国の精神や、いい意味で保守的なアメリカの魅力に触れました。3年目はがらりと変わって、大都市ボストンのエマーソン大学です。
鈴木 ボストン大好きです。高校がニューハンプシャー州だったので、最寄りの空港がボストン空港でした。
たつみ 学問と文化の中心で学生の多い街です。思い出も多く、れんが造りの美しい街並みやクラムチャウダー、そして何よりサミュエルアダムズ!(ビールの銘柄)
鈴木 そうそう。ハニーポーターっていう黒ビールがお気に入りでした。地ビールマニアなんです。大阪にお伺いしたときはビールバーに行きましょう(笑い)
たつみ 是非ともご一緒させてください(笑い)。
 私はアメリカの歴史や自由の精神が大好きです。批判もしますが、民主主義の健全な面は見習いたいです。

利益のため破壊される教育

【編集部】鈴木さんが新自由主義的「教育改革」を告発されるようになった経緯をお聞かせいただけますか。

市場原理主義の闇が見えてきた

たつみコータローさん 日本共産党前参院議員 参院大阪選挙区候補
【たつみコータローさんのプロフィール】
 1976年生まれ、米エマーソン大学映画学科卒。2013年参院初当選。参院党国対委員長、予算委員会理事、経済産業委員、ODA特別委員など歴任。

鈴木 大学院の修士課程を終えて日本に帰国し、千葉市の公立中学校で教員を6年半勤めました。
たつみ そのあと教職を辞して2度目の渡米をされるのですよね。
鈴木 はい。教壇に立ちながら、日本で「教育改革」が進まないことに危機感を持ちました。当時、大胆な教育改革を進めていたアメリカで学び直そうと思ったのです。
たつみ そこで市場原理主義の「闇」の部分が見えてきたのですね。
鈴木 大規模な学校閉鎖が進み、塾のような公設民営学校も登場していました。義務教育なのにテストの点数による学校の序列化が進み、学校を失った貧しい地域の子どもたちがたらい回しにされていました。
 極め付けは、自分たちの子どもの教育で体験しました。小学校入学の際、20校の公立小学校を選択して、教育委員会に提出するのです。
たつみ 20校選べと言われても大変ですね。
鈴木 結局、膨大な情報を精査し、数多くの学校説明会に行くゆとりのある家庭だけが優遇されるのです。
たつみ 学校選択の機会は決して平等に保障されていない。
鈴木 義務教育に「当たり外れ」があってはならないのです。だから妻と話し合い「選ばないことを選ぼう」という選択をしました。
たつみ どうなったのですか。
鈴木 ニューヨークの黒人文化の拠点の1つ、ハーレム地区に住んでいたのですが、最も「選ばれない」学校の1つがあてがわれました。うちの子たち(アジア人)以外はアフリカ系かラテン系アメリカ人です。最低生活水準以下の家庭が8割、5人に1人がホームレスの家庭でした。
たつみ 経済格差が教育格差となって表れているのですね
鈴木 しかも貧困地区では少しでも点数を上げて生徒を増やそうとテスト漬けです。公教育って何なのかと考えさせられました。
たつみ 今春、次女が小学校に入学しました。私たちの地域は小学校選択制で、教育委員会の「案内パンフ」には、全国学力テストで国語が60点、算数が69点など学校ごとの点数が書いています。「さぁ選んでください」と。
 中学進学者向けの進路パンフレットには、「〇×高校に何人合格」と情報が紹介されています。
鈴木 まさに公教育の「市場化」ですね。
たつみ 大阪の維新政治で最も壊されてきたのが教育の分野だと思っています。
鈴木 そうですよね。

源流は安倍政権の教育基本法改悪

たつみ 2012年成立の大阪府教育基本条例は、「激化する国際競争に対応する」ため市場原理を教育現場に導入するとして、「学力テスト」学校別結果公表、3年連続定員割れ府立高の廃校、保護者が教員を評価し給与反映させるなど、アメリカと瓜二つの「改革」が打ち出されていきました。
鈴木 源流をたどると、2006年の教育基本法改定が大きいです。
たつみ 第1次安倍政権の時ですね。
鈴木 目標達成は「人格の完成」に待つというあの格調高い前文が消えて、戦後厳しく戒めてきたはずの政治による不当な教育支配が引き起こされていくのです。
たつみ 民間人校長による「君が代」口元チェック事件、従軍「慰安婦」を授業で教えた教員をバッシングしたのも、維新を中心とした政治家でした。
鈴木 政治による教育支配の動向をみると、「愛国」と「学力向上」の2つの切り口が共通です。
たつみ 「学力テスト」で全国最下位レベルが続いた時に激怒し、競争教育を進めたのが維新の首長でした。
鈴木 「人格の完成」はどこに行ってしまったのかと思います。

政治からの独立を再び取り戻す

たつみ 祖国を愛する気持ちは自然に芽生えるもので、政策としてナショナリズムを高揚させるのは大問題です。
鈴木 結局、「愛国」「学力向上」は、教育現場の自由と裁量を奪うことで共通しています。
 教育が戦争に加担した過去の反省から、当初、教育委員は公選制だったし、教育行政トップの教育長にも「教育長免許」の取得が義務付けられていました。素人に教育行政のトップに立ってもらっては困るのです。
たつみ 政治からの独立という教育の基本原則を、再び取り戻していかなければならないと思います。

つながりながら教育再生へ

【編集部】市場原理主義の「教育改革」をはね返していく力、展望はどこにあるのでしょうか?

子どもの実態と改悪の裏を知り

鈴木 アメリカでは、新自由主義教育改革の反対運動も日本の20年先を走っています。
たつみ 鍵はどこにあったのでしょうか。
鈴木 子どもたちの実態と、「改革」の裏側を知った当事者の声です。
 政治と教育産業の癒着が進み、「利益」のためにと国、州、市、地区のテストやドリル販売が進み、宿題が増え、過度のストレスで学校に行けない、円形脱毛症になる子、テスト中に気分が悪くなって嘔吐する子どもが増えました。
 テスト業者が学校向けに作ったマニュアルには、嘔吐で汚れた答案用紙を密閉袋に回収する方法まで書かれていたのです。
たつみ ひどすぎる。
鈴木 泣きながら宿題に追われる2年生の女の子の写真がSNSで全米拡散されて、「わが子も同じ」「子どもたちは点数じゃない」と親がテスト拒否の声を上げ、先生も「授業をさせてくれ」と叫び始めました。
たつみ 反対運動が広がっていくのですね。
鈴木 ええ、その拠点が教育「改革」先進地だったシカゴです。ビジネス街近くのスラムにある学校を統廃合する計画は都市開発が狙いだったことや、「財政難」がでっち上げだったことがわかり、市民の怒りに火が付きました。

皆が手をつないだことが転機に

たつみ 大阪でも、廃校にされた府立高跡地にマンションが建っています。大阪市では全国に例のない小学校の「適正規模」を条例化してまで大規模な学校統廃合が進み、市民が手をつなぎ反対運動を広げています。
鈴木 アメリカでの運動の転機は、子どもたちと先生そして保護者たち3者が手をつないだことです。
たつみ 緊急事態宣言下に導入したオンライン学習が現場を混乱させたと、実名で提言した大阪市立小学校長の勇気ある行動に共感が広がりました。
鈴木 シカゴで反対運動が広がったように、日本で最も新自由主義の抑圧を受けてきた大阪だからこそ、運動が広がる可能性があると思っています。
たつみ 大阪市廃止を否決した住民投票の勝利もそうでした。市民は決してへこたれていません。
鈴木 新自由主義は、市場原理というイメージがあるけれど、民主主義の破壊の裏返しだと思っています。
たつみ 教育壊しと民主主義破壊がつながっているのは、まさに大阪の現状です。
鈴木 私が住んでいる土佐町は小さな自治体ですが、小さいからこそ大胆に動けます。議会の皆さんと一緒に「全国学力テスト」見直しや、教員の労働条件改善など全国に向けて運動を強めたいと思っています。
たつみ 日本共産党は、コロナ禍で「子どもたちに少人数学級をプレゼントしよう」と呼び掛けました。いまウクライナ侵略を捉えて憲法9条を攻撃する動きがある中で、憲法や教育の理想が実現できる政治を目指したいと思います。

個人の魅力とともに党を丸ごと

鈴木 共産党さんは、たつみさんをはじめ、吉良佳子さんや山添拓さん田村智子さんら素晴らしい個性ある議員がそろっていますよね。
たつみ ありがとうございます。
鈴木 だけど私の周りは共産党アレルギーの強い人が多くて歯がゆいです。個人ブランドを押し出しながら、党派を越えて仲間を広げてほしいと思っています。
たつみ 私たちも共産党へ の誤解を解けるよう個人の魅力とともに、日本共産党という政党のことを丸ごと知ってもらう努力をしたいと思います。
鈴木 新自由主義の政治体制を支えているのも社会への無関心が根っこにあると思います。
 ロシア軍のウクライナ侵攻の背景には、プーチン政権による市民監視や情報統制など徹底した民主主義の破壊がある。でもそれは戦前・戦中の日本の姿であるし、現在もなお問われなければならない課題です。日本の公教育が真に「公=パブリック」なものになるよう私も頑張っていきたいと思います。
たつみ まさに教育は百年の計。少人数学級や高等教育無償化など教育環境を改善し、そして何よりも国民の暮らし、平和を守るために力を尽くしたいと思います。今日は本当にありがとうございました。
鈴木 またお会いしましょう、ありがとうございました。

(大阪民主新報、2022年5月1日・8日合併号より)

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