おおさかナウ

2021年07月17日

松井大阪市長「オンライン授業」で
子ども・保護者・学校が大混乱
よくする会・市退教が教育シンポジウム
大阪市の学校・教育の実態語り合う

 ことし4月、新型コロナの緊急事態宣言に伴って大阪市の松井一郎市長(日本維新の会代表)が、市立小中学校での「オンライン授業」実施を一方的に発言し、子ども・保護者・学校が大混乱しました。さらに生野区での学校統廃合の強行やテスト漬けの競争などが行われる中、大阪市の学校と教育の実態を語り合い、市長による教育介入の問題点を明らかにして転換の方向を探ろうと大阪市をよくする会(よくする会)と大阪市退職教職員の会(市退教)が11日、大阪市北区内で第1回教育シンポジウムを開催。会場には40人が参加、Zoomで40人以上が視聴しました。

「自己責任」や競争・効率優先に

よくする会と市退教が開いた第1回教育シンポジウム=11日、大阪市北区内

 開会あいさつで市退教の永吉茂夫会長は、大阪市の教育を巡って維新政治の強権的な手法や「勉強ができないのは子どもや家庭のせい」といった「自己責任」の押し付け、効率や競争を優先するやり方などの問題点を挙げ、「子ども、保護者、市民の声を集めて議論し、新しい方向性を見出す時期に来ている」と語りました。
 元文部科学事務次官の前川喜平氏が「日本の教育が危うくなっている時に、このようなシンポジウムが開催されることは、大変大きな意義がある」とのメッセージを寄せました。
 シンポジウムは、よくする会東淀川連絡会の小林優氏が進行。「オンライン学習」の実態について大阪市旭区在住の中学生の母親(Zoom参加)と現職教員が証言、日本共産党の宮本岳志前衆院議員と元大阪府小学校長会会長の西林幸三郎氏が発言しました。

「学びの格差」が二重に 全生徒の接続は不可能 保護者や教員が証言

ID・パスワードが分からないのに

 母親は、小学1年生はIDやパスワードの意味が分からずプリント学習になり、1時間目から対面授業をした学校もあるなど、対応は各校でばらばらだったと指摘。大阪市の学校間だけでなく、通常授業を行っていた大阪市以外の学校との間で「学びの格差」が二重に生まれたと語りました。
 さらに高校受験を控えた中学3年生は1カ月間授業が進まず、進路にも影響が出ている子どももいるのではないかと語り、「小中学校の9年という教育を受ける貴重な期間を奪うことは許されない。市長と市教委は今回のことを反省し、謝罪する義務がある。これ以上、大人の都合で未来ある子どもたちを犠牲にしては絶対ならない」と訴えました。

タブレットあっても回線が不十分で

 現職教員は、3月末時点で小中学校のすべての児童・生徒にタブレットを配布していたが、回線が止まるなど、担当の教職員も悩んでいたと指摘。1クラスの接続時間は15分くらいしかなく、接続作業に5分、説明に5分を費やすと、残りは5分だけで、低学年は家に保護者がいないとタブレットを使えないなど、「全校生徒が接続することは、そもそも不可能だった。授業を進められず、特別支援学校のことも考えていない」と話しました。

子どもの利益守る共同を参加者の交流から

子どもの声を聞くことが求められる

 交流では、国連子どもの権利条約の実現を目指して活動する「子どもの権利・NGO大阪」の長尾ゆりさんが、「オンライン授業」問題を決して見過ごすわけにはいかないと、6月3日に声明を発表したと報告。同条約12条の子どもの意見表明権に触れながら、「今こそ子どもたちの声を聞くことが求められる。子どもの最善の利益を守る共同を広げたい」と語りました。

オンライン化とともに少人数学級を

 保護者や子どもへのタブレットアンケートに取り組む新婦人府本部の福井依智子事務局次長が、これまでに寄せられた回答を紹介。「これからの時代に必要」と歓迎する声がある一方で、少人数学級や教員増を求める声も大きく、子どもたちからは「トイレをきれいにして」「休み時間を長くして」などの率直な意見も寄せられていると話しました。
 日本共産党の井上浩大阪市議(教育こども委員会所属)は、松井市長が「オンライン授業」に必要な環境整備の到達点も認識せず、到達点を知っている市教委が市長にものが言えなくなっていると指摘。「10年に及ぶ維新政治による教育行政への介入の根深さ、深刻さが表れている」とし、引き続き議会で追及していきたいと語りました。

全行政区で教育問題での取り組みを

 閉会あいさつした、よくする会の福井朗事務局長は、「教育とは社会の未来を私たちが創造する一大事業」と強調。今回のシンポジウムを機会に、全ての行政区で教育問題での懇談会を開くなど、地域から継続的な取り組みを進めていこうと呼び掛けました。

教育行政を決定するのは合議制の教育委員会
前衆院議員 宮本たけし氏

報告する宮本氏

 宮本氏は地方教育行政法(地教行法)の第21条で教育委員会が管理・執行する事務が定められ、教育行政の最終決定者は合議制の執行機関である教育委員会だと強調。同法に照らして「オンライン授業」の実施を決める権限は松井市長にも教育長にもないと断じ、そもそも実施できる条件がない中で、市教委は松井市長の指示を断るべきだったのは明らかだと語りました。
 5月11日の教育委員会では出席した委員から「(実施は)テレビニュースで知った」「8割、9割が接続できたとの報告には違和感がある」「ネットに接続できるのは1週間に1回35分間だけ」などの異論が噴出したことを示し、「合議制で決定したという体裁すらない」と述べました。
 宮本氏は、安倍晋三前首相や橋下徹氏らが狙った教育委員会の廃止は、首長による教育への政治介入に道を開き、侵略戦争の歴史を偽る教科書の押し付けや、いっそうの競争教育をあおることに狙いがあったと指摘しました。
 地教行法の改悪(2014年)についての衆院の論戦で宮本氏が、教育長に対し首長が職務命令を出せるかと質問したのに対し、当時の前川喜平初等中等教育局長が「出せない」と答弁した動画も上映。「大きな運動で教育委員会の廃止を止めた。この財産を生かして、子どもたちを守り抜こう」と語りました。

職員と保護者に依拠する学校経営こそ基本に
元府小学校校長会会長 西林幸三郎氏

報告する西林氏

 西林氏は、大阪市立萩之茶屋小学校(大阪市西成区)の校長時代に、全ての教職員の「総意」を集め、「創意」を生かすことが学校経営の基本であることを学んだと強調しました。橋下府政時代に、「赤字解消」の名で府独自の教育施策を切り捨てられようとしたときに、存続を求めて校長会やPTA協議会で緊急署名に取り組んだことを振り返りながら、「職員、多くの保護者に依拠して学校経営することが大切だ」と述べました。
 「オンライン授業」を巡る松井氏の発言について西林氏は、「本当にオンラインで授業したことがあるのだろうか。大学生でもうまく活用し切れておらず、教育においては対面に勝るものはない。子どもたちの顔を見て、その願いを実現するのが教師の役割だ」と力説しました。

(大阪民主新報、2021年7月18日号より)

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