おおさかナウ

2025年11月29日

新規申請の即時停止、「特区民泊」離脱を
特区民泊 大阪市内でトラブル続出

 外国人観光客向けの「特区民泊」は、全国の9割以上が大阪市に集中しています。宿泊者のごみ出しや騒音に事業者や管理者が対応できていないなど、近隣住民とのトラブルが多発。「特区民泊」を先導してきた維新市政は、ようやく新規申請の停止を打ち出しましたが、実施時期は来年5月末です。これに対し、新規申請の即時停止や「特区民泊」からの離脱を求める声が上がっています。

一人で署名を開始 民泊数も調査して

住宅地にできている民泊(大阪市中央区内)

住宅地にできている民泊(大阪市中央区内)

 大阪市中央区の空堀商店街に住む澤井祐太さん(43)らが11月4日、大阪市役所内で横山英幸大阪市長宛てに、「新規申請の即時停止、及び、悪質・違法民泊の業務停止を求める要望署名」を提出。わずか数週間で寄せられた署名は3018筆。最初は澤井さん一人で始めました。
 澤井さんが「特区民泊」問題で活動を始めたのは、ことし5月。自宅前の家屋を「特区民泊」にする計画を知ったことがきっかけでした。一帯は長屋や民家が密集。ごみ対策やたばこの火による火災などを心配しましたが、事業者からはまともな回答がありません。
 地域の連合町会に相談したところ、「5~6年前から民泊が増えている。今さら声を上げても仕方がない」などの声が出たといいます。市が新規申請の停止方針を出す中、停止時期が決まるまでに「即時停止」を訴えようと、署名を準備。町会長の賛同や有志の協力が広がりました。

知らない人が毎日うろうろ

「特区民泊」の新規申請即時停止などを求めた署名を提出する澤井さん(右から2人目)ら=4日、大阪市役所内

「特区民泊」の新規申請即時停止などを求めた署名を提出する澤井さん(右から2人目)ら=4日、大阪市役所内

 取り組みの中で澤井さんは、「毎日知らない人が家の前をうろうろしているのは、とてもストレスを感じる」「深夜に迷いながら民泊に来るが、話し声やスーツケースの騒音で落ち着いて眠れない」など、切実な声を聞きました。
 澤井さんの案内で、空堀商店街周辺を歩いてみました。住宅地には裏路地が入り組んでおり、そもそも部外者が足を踏み入れる空間ではなかったはず。ところが住民が暮らす長屋の隣が民泊だったり、行き止まりにある5軒のうち4軒が民泊になっている場所もあります。
 路地で出会った女性は「以前、夜に民泊で火災報知機が鳴ったことがある。管理者に連絡してもつながらず、自分で消防に電話した。誤作動と分かったが、安心して夜も寝られない。今は報知機の電源が切ってある。それもひどい」と話しました。
 澤井さんは7月と11月の2回、「特区民泊」の現況を調査。商店街周辺で69カ所から116カ所に増えており、マンション1棟貸しの「特区民泊」もあることが判明しました。事業者が健全な民泊事業を行うためには、町会に加入するなど、地域のルールを守ることが必要で、町会の役割も欠かせないと言います。
 要望署名と同趣旨の陳情書を19日に大阪市議会に提出した澤井さんは、「私たちの精神的負担は大きいため、住環境の安全と市民の安心を守る街づくり運動を続けたい」と話します。

大阪市の特区民泊 全国の9割超集中

 宿泊営業は、原則として旅館業法に基づく許可が必要です。ところが安倍政権時代の2013年に制定された国家戦略特区法に基づき、外国人観光客の宿泊施設を確保するために導入された「特区民泊」は、都道府県知事(保健所)の認定だけで営業が可能。住宅専用地域でも、営業できます。
 大阪市の「特区民泊」は、吉村洋文市長時代の2016年から実施。内閣府の発表によると認定件数(9月末現在)は7068件で、全国の94・3%を占め、西成・中央・浪速の3区に市全体の約6割が集中。居室数(同)も1万9288室と、全国の95・4%を占めています。
 住宅宿泊事業法(2017年成立)に基づき、旅館業法の適用除外となる「新法民泊」も大阪市内で2017件(同)が存在。「違法民泊」も後を絶ちません。

安全・安心な生活環境守れ
大阪市をよくする会が署名運動

 大阪市をよくする会(よくする会)は、市民の安心・安全な生活環境を守るため、民泊の新規申請の即時停止と、「特区民泊」からの離脱を求めて、大阪市の横山英幸市長宛ての要請署名に取り組み始めています。要請項目は次の6つです。
1、「特区民泊」・新法民泊の新規受付をただちに停止すること
2、すべての民泊施設の実態を調査し、違法民泊を取り締まること
3、苦情相談窓口などの体制を強化するとともに、区役所にも相談窓口を設置すること
4、大規模災害時の民泊宿泊者を含めた防災計画を市民に示すこと
5、空家等対策について、民泊に転用されない対策を進めること
6、大阪市は「特区民泊」から離脱すること

大阪市の特区民泊認定件数(9月末現在)

西成区 1,863
中央区 1,179
浪速区 1,148
生野区 471
此花区 303
東成区 293
北区 275
天王寺区 205
西区 201
港区 190
淀川区 132
福島区 131
住之江区 116
城東区 109
大正区 98
阿倍野区 86
東淀川区 74
都島区 61
住吉区 46
西淀川区 35
旭区 19
東住吉区 18
平野区 13
鶴見区 2
合計 7,068

大阪市議会 維自公など賛成で条例可決
日本共産党 問題点指摘し反対

 大阪市の「特区民泊」条例案は2014年9月、当時の橋下徹市長が提出しましたが、維新以外の反対多数で否決されました。翌年9月、橋下氏が再度提案。これを一部修正した条例案を吉村市長が16年1月に提案し、日本共産党以外の維新、自民、公明などの賛成多数で可決されました。
 反対討論に立った日本共産党の小川陽太議員(当時)は、「特区民泊」は市民生活に大きな影響を及ぼすと警告。「市民の不安を取り除けない中、拙速に可決すべきではない」と主張。そこで挙げた問題点は、いま起きている混乱を予見するものでした。
――345件あるホテルの訪問検査さえ3年に1回。5千件の事業登録を見込む「特区民泊」を監督する体制が明確でない
――市民の生活空間に入れ替わり立ち代わり外国人が出入りすることで、近隣住民の生活環境が脅かされる恐れがある
――修正案には宿泊場所への立入検査の権限が盛り込まれたが、罰則がなく、治安悪化を心配する市民に責任を持てない

民泊トラブルの急増で見直し主張も反省なく
維自公 

 「特区民泊」を巡るトラブルは急増しています。
 宿泊者のごみ出しや騒音など、地域住民から大阪市への苦情は、寄せられたものだけでも昨年度399件で、コロナ前の19年度と同数。今年度は8月末ですでに600件と、昨年同時期の1・5倍です。
 一方、制度を推進してきた維新、自民、公明などは自らの反省なしに、「制度見直し」を主張。ことしの参院選後、吉村知事は、「新規の(事業申請)募集は停止すべきだ」と発言。府として政令市・中核市を除く府内市町村に、「特区民泊」の対応を調査しました。
 8月7日には、寝屋川市が「特区民泊」認定区域の廃止を府に申請。現在、独自の認可権限がある大阪市、八尾市を含む府内32市町村が、来年5月末からの新規受付の停止を表明しています。
 8月29日には、大阪府旅館ホテル生活衛生同業組合と大阪府簡易宿所生活衛生同業組合が、「特区民泊」制度の廃止を求めて大阪府と大阪市に要望を提出しました。
 9月18日には、自民・公明などが新規申請の受付停止などを求める要望書を、横山英幸市長に出しました。

ある限り苦情防げぬ 廃止の方向に向かえ
大阪市議会決算特別委 日本共産党・井上議員

 大阪市議会決算特別委員会(11月7日)で日本共産党の井上浩議員は、市が「特区民泊」の新規申請の受付停止を来年5月29日としたことについて、「終了時期までが長すぎる」と批判。市側が「(民泊事業者に対し)一定の周知期間の確保が必要」などと答弁したのに対し、「住民に寄り添い、実情に沿って大阪市が主体的に判断すべきだ」と強く求めました=写真。
 井上氏は、受付停止まで「特区民泊」はさらに増え、新規受付を終了しても、すでに認定を受けた施設は残り、「特区民泊」の問題は解決されないと強調。既存民泊への対策について市側は、保健所に「迷惑民泊根絶チーム」を設置したなどと答えました。
 「根絶チームを設置しなければならないのなら、制度の根絶を。特区民泊が存在する限り、苦情の発生は防げない」と井上氏。市民の生活空間と来訪者の「にぎわい空間」を分けるという本来の観点が「特区民泊」に欠落しているとし、「違法民泊の排除に全力を挙げ、『特区民泊』も廃止の方向に向かうのが住民やホテル業界の願いだ」と力説しました。

(大阪民主新報、2025年11月30日号より)

 

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