おおさかナウ

2018年08月12日

座談会 人間らしく生きる権利求め
貧困の克服へ力を合わせて
〝健康で文化的な最低限度の生活〟を

 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。憲法第25条は、国民の生存権と国の社会的使命をそう定めています。社会的格差と貧困が悪化する下で、食費や光熱費などに充てる生活保護の「生活扶助費」が今年10月に削減されようとする中で、貧困をなくすために必要なことは何か、社団法人「シンママ大阪応援団」の協力を得て、大阪市内で暮らす2人のシングルマザーと日本共産党のたつみコータロー参院議員に話し合っていただきました。(司会は編集部。文中氏名は仮名)

(後ろ向き左から)大野さん、高橋さんと語り合うたつみコータロー議員

(後ろ向き左から)大野さん、高橋さんと語り合うたつみコータロー議員

 

出席者

日本共産党参院議員
 たつみコータローさん
大野涼子さん(46歳)=仮名=
高橋葉月さん(25歳)=仮名=

シンママ大阪応援団

 シンママ(シングルマザー)世帯の支援など子どもの貧困問題に取り組む「シンママ大阪応援団」は2015年5月に設立され、経済的困窮や子育てをめぐる悩み、DV被害など相談窓口の設置や生活保護の申請同行などに取り組んできました。

 お節やケーキなどの料理教室、小旅行や着物の着付けなど親子で楽しめるイベントを企画。食料品や日用品、図書カードなどを宅配便で月1回届ける「スペシャルボックス」は16年1月から続けています。今年3月に一般社団法人となりました。

 シンママ大阪応援団は「スペシャルボックス」の支援物品提供を呼び掛けています。送り先は〒530―0034大阪市北区錦町2―2大阪国労会館内シンママ大阪応援団へ。Eメール:soudan@shinmama-osaka.com

生活水準引き上げず 扶助費削減する政権

――安倍政権はこの10月に、生活保護制度で食費や光熱費など日常生活費に充てる「生活扶助」を最大5%削減しようとしています。

高橋さん 生活保護を利用しながら生後5カ月の赤ちゃんを育てています。保護基準見直しのニュースを聞くと心配になります。家計は厳しく真っ先に削るのは食費。牛や豚より値段の安い鶏肉に目が行きますし、それでも100㌘で100円以上のお肉には手が出ません。

たつみ議員 生後5カ月の赤ちゃんなら、おむつ代もかかってきますよね。

高橋さん はい。一日中おむつ交換に追われている感じです。ただこの子に必要なものを削ることはできません。母乳で育てています。ご飯をしっかり食べないと母乳の出が細るので、私がしっかり栄養を摂らないといけないと思っているのですが…

低い水準に合わせて削減を

たつみ議員 今年は5年に一度の生活扶助基準見直しの年で、安倍政権は、“生活保護を受給していない低所得者世帯の消費水準が下がったから合わせる”という理由で、生活保護費を切り下げようとしています。本来なら低い人の生活水準を引き上げていくのが政治の役割です。根本的に間違っていると思います。

大野さん 私は中学1年と小学1年の娘と3人で暮らしています。いまは生活保護を利用していませんが、追い詰められていた時に、生活保護申請の相談をしたことがありました。

たつみ議員 収入が生活保護基準を超えていたのですか?

大野さん はい。パート収入と元夫の養育費、児童扶養手当と子ども手当で生計を維持してきました。
 現在新しい住宅を探しているのですが、養育費がいつ滞るかもしれないし、民間賃貸に入居し高い家賃を払うことになれば、家計は破綻します。生活保護費の切り下げは、多くのシングルマザーにとって重大問題だと思います。

国民全般に影響与える削減

たつみ議員 生活扶助基準の引き下げは、制度利用者の暮らしを直撃するだけではなく、国民生活全般に影響します。
 子育て中のお母さんにとって言えば、就学援助や住民税非課税基準、最低賃金など、暮らしに密接する制度に影響が及びます。
 まさに、政府が保護費切り下げの口実にしている「一般低所得者」の暮らしを追い詰める、悪循環の政策です。

高橋さん 考えれば考えるほど納得できません。どうして国民みんなが困るような福祉の削減を進めるのでしょうか。

たつみ議員 国の財政危機を理由に福祉や医療、保育、年金など社会保障予算を削減する大方針があるからです。
 年金制度や介護、医療など、社会保障の予算を切り捨て下へ下へと向かわせようとすれば、国にとって最後に邪魔になるのが、土台の部分で国民生活を守っている生活保護制度。そのため生活保護制度は常に激しい攻撃にさらされ、安倍政権は保護費削減を進めてきました。

バッシングと「水際作戦」で

大野さん 芸能人の母親が生活保護を受給していたというバッシングがありました。

高橋さん そのことは私も覚えています。

たつみ議員 生活保護削減の前には、必ずバッシングが起きるのが特徴です。
 芸能人の母親のバッシングは、私が国会議員になる1年前の事件で、ちょうど候補者活動をしていた時でした。
 意図的なバッシングで生活保護制度への差別と偏見、誤解を一気に広げました。今も絶対に許すことができない事件です。

高橋さん あのバッシング報道もあって、生活保護はなかなか受けることができない、窓口で追い返されるというイメージがありました。

たつみ議員 「『親族に援助を求めなさい』とか、『若い人は駄目』と追い返す窓口での違法な対応、いわゆる「水際作戦」で申請をためらう人も多いです。当時のことを聞かせていただけますか?

高橋さん 昨年、妊娠したことが分かった頃、親族の不幸が起きました。精神的ショックを受けた夫は、私とお腹の赤ちゃんの存在そのものを否定し、「子どものことは知らない」など暴言を浴びせるようになりました。暴力行為はなかったのですが、結婚する前は、口げんかで包丁を手に「死んでもいいのか」と叫ぶこともありました。

たつみ議員 脅迫に近い言動で相手を支配するDV(ドメスティック・バイオレンス)ですね。

高橋さん 夫は無職状態で生活費を入れません。国民年金は未納で国民健康保険も滞納し、別の借金返済も抱えていました。
 お腹の中の赤ちゃんを守るために家を出たのですが、夫からは「もう話はできない」と突き放されました。
 この頃、知人女性が「シンママ応援団」を紹介してくれました。シンママ応援団の支援で、離婚と生活保護の手続きを進めることができました。
 お腹の中で赤ちゃんは日に日に大きくなっていき、妊娠中の私が生きていくには、生活保護しかありませんでした。生活保護を受けるのは情けないという気持ちがあったのですが…

「受給」ではなく「利用する」

たつみ議員 情けないなんてことは決してありません。生活保護は権利ですから。「保護」という言葉がどうしても受け身のイメージを与えてしまいますが、憲法25条は全国民に最低生活を保障するよう国の義務を書いています。
 与えられた権利を行使するというのが本質で、私たちは生活保護制度について「受給」ではなく、「利用する」という言葉を使っています。

高橋さん そうおっしゃっていただけると、とてもうれしくて安心します。

たつみ議員 日本では、困窮状態にあっても、多くの人が生活保護にたどりつけません。
 生活保護基準以下の収入で実際に生活保護を利用する人の割合=捕捉率は、厚労省推計で23%。EU諸国の6~9割と比べて極端に低くなっています。
 生活保護は、病気や失業など理由を問わず、困窮状態にある人を守る制度。問うべきは貧困を生み出している真の原因で、ダブルワークやトリプルワークを重ねても苦しい最低賃金や、非正規雇用を増やし続ける雇用政策、貧弱な年金制度や、消費税増税など弱い者いじめの政治構造です。
 捕捉率の低さは弱い者いじめの政治の象徴で、これを都合よく覆い隠す仕組みが、国民同士を分断する「生活保護バッシング」だと思います。

住居確保へ初期費用を支援する仕組みを

生活費不安と住まいの確保

大野さん 私も元夫のDVから、自分と子どもの命を守るために家を出ました。夫は包丁を向け、人格を否定する暴言を続けました。出産後は子どもに矛先が向かい、子どもの心は深く傷つき、「自分なんて存在しないほうがいい」と、自己の存在さえ否定するようになっていきました。

たつみ議員 国会議員になる前に9年間活動した此花生活と健康を守る会では、若いお母さんたちの相談を受けました。夫が家に戻らなかったり給料を渡さないケース、暴力などのDV被害も多く、「明日家を追い出される」と痩せ細ったお母さんが駆け込んできたこともありました。

大野さん 同じです。私の夫も給料を入れませんでした。自動振り込みの光熱費が落ちなくなり、困って「生活費を入れて」とメールを送ったこともありました。家族なのに…。

たつみ議員 経済的事情がネックになって、離婚に踏み出せないケースは多いですね。本来、夫婦は対等・平等の立場のはず。女性差別が残された日本社会の現状と合わせ、変えていかなければと痛感します。

大野さん 夫は子どものおねしょに激高して布団を捨てると騒いだり、気に入らないと子どもをはがいじめにして、ベランダから落そうとしたことがあり、「もう駄目」と離婚を決意しました。
 警察署に相談したら「逃げなさい」と言われました。最後まで悩んだのは、やはり生活費の不安。最初に困ったのは住まいの確保でした。

たつみ議員 子どもの命を守るための決断ですから、家を出たのは間違っていないと思いますよ。そんなお母さんや子どもたちを支える制度が必要ですし、特に日本の住宅支援策は遅れていると感じます。
 敷金や礼金を合わせて数十万円の資金を準備するのは大変ですから、初期費用を支援する仕組みを整備する必要があると感じます。
 現在の家計状況はどうですか?

児童扶養手当は命綱の制度

大野さん 1日6時間のパート勤務で週5日入っても月額8万円、でも子どもの病気などで欠勤すると、月収が2~3万円に減ってしまいます。

たつみ議員 公的支援制度は受けていますか?

大野さん 児童扶養手当と子ども手当を受給しています。本当に助かっている制度ですが、所得によって満額が受け取れないなど問題を感じることもあります。

たつみ議員 児童扶養手当は、困窮しがちな1人親家庭にとって、命綱の支援制度です。現在は年3回、4カ月分を「まとめ支給」しているのですが、離婚から最大4カ月後に、初めて児童扶養手当を受け取るケースも出てきます。
 私は国会で取り上げて「せめて2カ月ごとに支給を」と質問し、厚労省は来年11月に年3回から年6回へ、支給方法を見直すことが決まりました。

高橋さん すごい!よかったですね。

たつみ議員 児童扶養手当の総額は変わらないのですが、安定して家計を管理しやすくなる。大きな改善だと思います。

安心して教育が受けられる支援策整備を

「生活保障法」に改正を提案

たつみ議員 いま日本の政治に求められているのは、憲法25条が定める、「健康で文化的な最低限度の生活」を文字通りすべての国民に保障することです。
 日本共産党は、今年2月、生活保護法の名称を「生活保障法」にして、最低生活の保障は国民の正当な権利だと明確にする法改正を提案しました。
 現在の生活扶助基準では、生存権が十分に保障されているとはいえません。一般低所得世帯はさらに厳しい困窮状態に置かれている場合が少なくありません。
 10月の保護基準引き下げは許されません。

高橋さん 国にはもっと国民生活の実情をしっかり見て、生活保護の基準を検討してほしいと思います。
 妊娠5カ月目で家を飛び出した時、「これからどうなるのだろう」と不安で押しつぶされそうになりました。
 でも病院でこの子を産んだ時、「生まれてきてくれてありがとう」と感動し、必ずこの子としっかり生きていこうと決意しました。体調を整えながら、自立に向けて進んでいきたいと思います。保育所の待機児童解消など、子育て支援が充実してほしいです。

私も同じ結果になったかも

大野さん DV被害や子どもの虐待事件のニュースを聞くたび、「私も同じ結果になったかも」と感じることがあってつらいです。親として子どもが平和で健やかに育っていける社会であってほしい。
 子どもが未来に向かって夢を抱いて生きられる社会であってほしい、高等教育の無償化や奨学金など、安心して教育が受けられる支援策を整備してほしいです。

たつみ議員 貧困の克服は、人間らしく生きる権利を求めてこそ実現できると思います。
 権利を求めるたたかいは1人では不可能ですが、皆さんとご一緒に力を合わせて頑張っていきたいと思います。今日は生の声をお聞かせいただき本当にありがとうございました。

大野さん、高橋さん はい、ありがとうございました。

(大阪民主新報、2018年8月12日、19日合併号より)

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