政策・提言・声明

2020年01月12日

百害あって一利なし
大阪市廃止・分割構想

 大阪市を廃止し、4特別区に再編するいわゆる「大阪都」構想=大阪市廃止・分割構想の制度案を議論する法定協議会は、維新と反対から賛成に転向した公明によって、協定書作成に向けた動きを強めています。しかし、2015年の住民投票で否決された案以上に、府民・市民にとって〝百害あって一利なし〟であることが鮮明になっています。

市民サービス切り捨て
いばらの道(上)

コストが増え

 大阪市廃止・解体構想は、市を四つに分割します。そのため教育委員会や議会を各特別区につくるなどで行政コストが増えます。庁舎整備費などもかかります。
 これらのコスト増に、国の地方交付税の増も補助金もありません。その費用負担のため、敬老パスや、子ども医療費助成、塾代助成、重度障がい者医療費助成、幼児教育無償化などが切り捨ての危機に直面します。国の地方制度調査会で指摘されたように「大阪市民は『茨(いばら)の道』を行く」ことになるのです。

維持できない

 かつて大阪市廃止・分割構想に反対していた公明党は、法定協議会で大阪市は「大きな財源をもって他の中核市でも全くまねのできないうらやましいほどの住民サービスを手厚くできてきた」が、特別区では「住民サービスを維持は到底できない」と批判していました。
 今春の知事・大阪市長ダブル選挙後、「総選挙で公明現職のいる選挙区に維新が対立候補を出す」との脅しに屈服し「都」構想賛成に転じました。
 この転向を「合理化」するため、公明は素案の「市民サービスを『維持するよう努める』には拘束力がなく、保障されない」「維持すると明記する」よう維新に懇願。維新は、特別区設置時点では「維持する」に変えるが、設置後は「努める」を残すと回答、さらに「10年間、府から特別区に年20億円追加配分する」ことを提案し、公明は受け入ました。

「焼け石に水」

 維新、公明の「合意」内容は、市民サービスを「維持する」保障にはなりません。
 公明が求めていた「維持」明記も「維持に努める」のままです。
 年20億円の追加配分も、法定協議会で指摘されている「財源が用意されていない行政コストの増だけで年200億円」もあり、焼け石に水です。財源が無く、市民サービスが切り捨てられるのは必至です。
 これは、大阪市廃止・分割構想の構造的欠陥から生まれたもの。これをストップしてこそ、市民サービスは維持・拡充できます。

府の交付金頼み特別区
いばらの道(下)

「むしり取る」

 大阪市廃止・分割構想は、府が「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」(前維新代表の橋下徹氏)制度です。
 素案では、市の収入8600億円は市廃止後、府に2000億円、特別区に6600億円配分します。配分割合は府議会が決めます。
 この仕組みを公明党は、「予算配分を決定するのは府議会。定数88人のうち、現在、市内選出議員は27人、今後も(敬老パスや子ども医療費助成、塾代助成等の)予算を継続できるかは甚だ疑問」「東京都のように、地方交付税が不交付団体で、国からの仕送りもなく、自立した財源を確保し、運営しているなら可能かもしれません。しかし、府も市も交付団体」と問題視していました。
 公明をなだめるため、維新は府から特別区に年20億円追加配分する案を出し、合意しました。しかし、〝市民向け予算の存廃は府議会次第〟という構造は残ったままです。
 また、20億円の財源の裏づけはなく、ねん出方法も示されていません。財政状況が厳しい府財政を圧迫し、府民のくらしの切り捨てを促進するだけです。

新規施策困難に

 特別区が、府の交付金頼みの問題は、これにとどまりません。財政調整の割合が固定化し、新たなニーズに応えられなくなります。毎日新聞は次のように報道しています。
 「東京都大田区の奈須利江区議は『人口や企業が集中し、日本で一番税収があるはずの東京23区で、なぜ待機児童や特別養護老人ホームの待機者が多いのか』と問い掛け、その答えを都と区の財政調整制度に求める。…奈須氏は『都区制度はこの(都と区の財政調整)割合が固定化し、社会保障の需要増などの変化に対応しにくい。区の自治権は極めて制約される』と指摘する」(5月25日付)
 大阪でも、社会保障の増大や給食費無償化等の子育て支援の新たな展開が求められていますが、大阪市廃止・分割は、その障害となります。
 維新がばら色に描く東京都制度が、大阪では百害あって一利なしであることは明らかです。

消えた「ニアイズベター」

 維新は、特別区になれば「ニアイズベター」で大阪市より、身近に行政サービスを提供できると宣伝していました。
 しかし、特別区は、税収の約7割が府に吸い上げられ、府からの交付金に頼らざるをえなくなります。
 まちづくりの権限は、一般市以下です。従来の市民サービスも維持できなくなります。「ニアイズベター」どころではありません。

人口規模大きく

 維新は「30万人、40万人規模に分割して身の回りのことは用が足せるようにするのが都構想の真髄」と宣伝していました。しかし、小さく分割するとコストがかかるため、人口規模を大きくし4区案にしました。
 第1区は85万人、第3区は70万9000人で、20政令市中、最小の静岡市の69万9000人より多い規模です。徳島県72万人、鳥取県57万人に匹敵します。
 その結果、2015年の住民投票時のパッケージ案にあった「区割り」は「ニアイズベターの視点」でとの表現は、今回の素案から消えました。「ニアイズベター」の看板は、既に倒れています。

災害対応できず

 分割コストがばく大との批判を避けるため、維新は、不足する庁舎の建設等をやめ、今の中之島庁舎を、合同庁舎として使用すると言いだしました。自治体内に庁舎がない―。鹿児島や沖縄の離島を除けば例がありません。
 第1区の本庁職員は約1130人ですが、そのうち、特別区本庁舎に入るのは82人だけ。約900人が中之島合同庁舎に入ります。第4区も、半数が合同庁舎に入ります。これには、「職員がいないのに、待ったなしの災害対応ができるのか」など厳しい批判が巻き起こっています。
 また、介護保険などは、特別区が合同で運営する「一部事務組合」が、水道や消防は府が担当するなど、行政が住民から遠のきます。
 特別区の議員数は、18~23人で中核市や東京特別区に比べ3分の1以下です。多様な民意の反映ができなくなります。
 「ニアイズベター」の粉飾ぶりが鮮明です。

中小企業支援
特別区の施策ほぼゼロ

 大阪市廃止・分割構想では、特別区の中小企業を支援する独自施策はほぼなくなります。
 市の資料では「国内からの企業等の誘致及び市内での再投資の促進(全区で事業費7354万円)」「中小企業技能功労者表彰等(同72万円)」「区役所における経営相談等(同78万円)」「商業魅力向上事業(同3946万円)」「経営支援特別融資(同6700万円)」程度。貧弱さは歴然です。

経済と生活両方

 原因は、大阪市廃止・分割構想が「成長に関わることは府」「特別区は身近な事務」との機械的分担で、特別区での地域経済を成長させる事業を御法度(ごはっと)としたからです。
 しかし、府であれ、特別区や市町村であれ、経済政策とくらし支援の両方が入り交じって事業が展開されているのが現実です。
 しかも、大都市地域ほど経済や交通、雇用、社会保障などを一体として総合的に処理することが求められています。東京の特別区はそれをどこでもやっています。例えば、荒川区では、「地域経済が区民生活の礎…区内産業の発展、地域経済の活性化及び雇用の創出を促進」する「活力ある地域経済づくり」を進めています。これが当たり前の行政です。

全国の流れと逆

 維新の機械的分担の発想は、全国の流れと真逆の古い発想です。
 国の「小規模企業振興基本計画」でも「多様な小規模事業者の存在は、我が国経済の発展基盤である重層的な裾野産業群を形成するとともに、地域の雇用を支えている」として、「事業の持続的発展」に向け国、府、市が連携して振興策を講じるとしています。
 司令塔になるという府の成長戦略は、人の不幸で経済を活性化させるカジノ頼みです。「中小企業にお金をばらまいても意味がない」と、ものづくり中小企業予算を3分の1に減らしています。
 これを加速する大阪市廃止・分割構想は、経営とくらしを壊す最悪の構想です。

大型開発中心へ
府は福祉の増進を放棄

 大阪市廃止・解体構想は、大阪府がやるべき「福祉を増進させる」仕事はせず、大型開発中心の府政に変質させます。
 それは、維新のホームページの「大阪市をなくして、大阪都に一本化し、財源を集中投資する」「広域行政の一本化は、究極の成長戦略…広域行政ですから、住民の身近なサービスにかかわることではありません」や、橋下徹氏(前維新代表)の「大阪府の役割も産業政策やそういうことに特化する」との発言で明らかです。
 実際、「子どもの安全は府の仕事ではない」と学校警備員補助を廃止するなどくらしの施策を削り、カジノとそのための鉄道・道路・港湾整備に人もカネも投入してきました。これを大阪市廃止・分割構想で、いっそう強力に進めようというのです。
 では、大阪市廃止・解体構想で、府民はどうなるのでしょうか。

市町村蚊帳の外

 府民向け施策が、さらに削減されます。旧大阪市域部の開発が最優先され、市町村は蚊帳の外になります。
 大阪市以外の市についても、権限の府への集約=取り上げがすすみます。大阪市から権限を取り上げただけでは「広域行政の一元化」「財源の集中投資」は完成しないからです。
 広域行政の権限は司令塔が持ち、市町村の「成長と発展」に関しての意見や要望は〝黙っとれ〟となり、切り捨てられます。

府民みんなの力

 府政の一大変質は、府民との間の矛盾を大きくします。
 大阪府市長会の「施策要望」は、府が廃止した学校警備員の復活、ブロック塀対策への府独自支援などを盛り込んでいます。教育・保育・学童保育の充実など切実な願いを込めた請願が毎年60~80万筆提出されています。
 自治体の役割を発揮し子育て支援・医療・介護・教育・防災を推進、大型開発優先からくらし第一、国の悪政の「防波堤」となり国の政治の流れを変える大阪に―府民みんなの力で大阪市廃止・分割構想にストップをかけ、明日の大阪を開くことが求められています。

議論封殺
判断材料示さず強行狙う

委員指摘を攻撃

 「大阪市を分割することで、行政コストが増大するが、交付税の増額措置はなく、市民サービスが維持できなくなる。コスト増の試算を」「職員体制も、市民サービス維持に懸念があると市人事室も言っており、必要数の試算を示すべきだ」―法定協議会でのこうした委員からの指摘に、維新は「法定協議会は、協定書をまとめるところ」「ちゃぶ台返しの議論はやめよ」と攻撃しています。
 しかし、「コスト増でくらしはどうなるか」などの情報は、市民が大阪市廃止・分割構想の是非を判断するうえで不可欠です。
 資料は出さず、自由な議論は封殺して、強行する姿勢は到底、許せません。

メディアに矛先

 「由らしむべし、知らしむべからず(為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はない)」の維新は、マスメディアにも矛先を向けます。
 橋下徹元大阪市長は、旧日本軍「慰安婦」発言をめぐって記者に「バカ」「ぼけた質問」「頭が悪いからな」と言い、高校卒業式での教師の口元チェック問題の時には「ふざけた取材すんなよ」と記者をつるし上げました。松井一郎大阪市長も、今春の知事・大阪市長ダブル選挙時に新聞名をあげ「僕とってるけど今日でやめる。あの新聞はダメ。ひどい」と演説しています。
 在阪メディアの報道には、こうした維新の圧力に屈せず、市民の的確な判断を助けるものもあります。
 一方で「特別区移行『25年元旦移行』確認」「IR収益 府と特別区折半 都構想 4区間は人口で配分」、「公明は住民サービスを維持させるために特別区が自由に使える財源を増やすよう要望…10年間で370億円が追加配分されることになった」など、決まったことのように、そしてメリットがあるような記事が多数、垂れ流されています。
 「ずっと言われ続けると人はそれが事実と信じ込んでしまう」―。あるジャーナリストの指摘です。マスメディアには、市民が「何が真実か」「どれを選ぶべきか」的確で迅速な判断ができる報道が望まれます。

たたかいこれから
市民の力でストップを

 維新は公明党を屈服させるなど「数の力」で法定協での議論を強行してきました。しかし、中身のボロボロぶりは、回を重ねるごとに、浮き彫りになっています。

中身はボロボロ

 維新は当初、2015年の住民投票で否決された案を「バージョンアップ」したといいました。しかし、最初から議論はつまずき、さまざまに繕ったあげく、でてきたのは「中之島合同庁舎案」「住民サービスは移行時のみ維持。後は『努める』だけ」「カジノ頼みでその利益を『特別区』へ回す」など、自治体のあり方からは程遠いものです。
 維新の松井一郎代表(大阪市長)は、「(来春から始める)出前法定協では反対意見はご遠慮を」と語っています。住民自治や民主主義のかけらもない発言ですが、「何を言われるかわからない」とよほどビクビクしているあらわれでしょう。
 大阪市廃止・分割構想は何重ものペテンに包まれてきました。11年の知事・大阪市長ダブル選で維新の法定ビラは「騙(だま)されないで下さい。大阪市はなくしません。バラバラにしません」でした。15年の住民投票では、「ラストチャンス。2度目の住民投票はありません」と宣伝しました。今回は「密約」と「脅かし」で、ことをすすめてきました。
 15年の住民投票で「共同の力」「論戦の力」「草の根の力」で維新のもくろみを打ち破った市民の力は健在です。

草の根から運動

 11月27日に開かれた「明るい民主大阪府政をつくる会」「大阪市をよくする会」の「府民のつどい」では、平松邦夫元大阪市長、立憲民主党の森山浩行府連代表代行が日本共産党の辰巳孝太郎前参院議員とともに壇上にたち、パネルディスカッションでは市議、学者、ジャーナリストが法定協の議論のでたらめぶりを痛快に斬りました。
 また、市内の各地で町会長や民生委員、医師の人たちとの立場を超えた話し合いなど草の根の運動がはじまっています。
 たたかいはこれからです。「カジノNO」で維新を全府的に追い詰めるとともに、大阪市廃止・分割構想ストップで政治的決着を―。大阪の前途をかけた決戦です。

(しんぶん「赤旗」2019年12月18日から7回連載で掲載)

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