政策・提言・声明

2010年11月07日

虐待から子どもを守り〝安心して子育てできる社会〟をめざして、みんなで力をあわせましょう

2010年11月
日本共産党大阪府委員会

1、幼い姉弟遺棄事件が問いかけるもの

  子どもの虐待事件があいついでいるなかで、大阪市西区で3歳と1歳の姉弟が放置され餓死した事件は府民のみならず、全国に大きな衝撃を与えました。7月30日の発覚と同時に、近隣住民の方々や児童福祉にかかわる人々がさまざまな取り組みを始めています。10月には地元の西区で「考えるつどい」が開かれました。

 幼い命をなぜ救えなかったか、虐待はどうしたらなくせるのか、事件を通してさまざまな問題が浮かび上がりました。数回にわたる通報が生かされなかった問題、児童相談所と関係者の連携、ワンルームマンションと孤立した子育ての問題、若い世代の貧困と就職難などがあります。

 いま、子育ての困難が増していると各方面から報告されています。子どもたちの命を守り、このような事件を二度と起こさないために何をしなければならないか、社会全体が真剣に考えるときではないでしょうか。日本共産党大阪府委員会は6月、「子どもの虐待を考えるシンポジウム」を開き、報告集も作成しています。同時に国会の特別委員会や、大阪府議会、大阪市議会、堺市議会をはじめ、多くの地方自治体で対策強化を求めています。

 今こそ虐待から子どもを守りたいと願う人々が手をつなぎ語り合う場を広げましょう。行政や関係機関(団体)、地域に何が求められているかを明らかにし、虐待から子どもを守り“安心して子育てできる社会”にするために、日本共産党大阪府委員会から提案を行い、いっそうの討論と共同の取り組みを呼びかけます。

 2、子ども虐待をなくすために、教育と福祉、子育ての総合支援に今こそ必要な措置を

  虐待を防ぎ、子育ての負担を解決するためには、子育ての総合支援が必要です。日本共産党は、当面、以下の拡充・改善を求めます。

 児童福祉司(ケースワーカー)、児童心理司の大幅増員など児童相談所の体制強化を

  児童相談所は、現在、大阪府6ヵ所・大阪市1ヵ所・堺市1ヵ所に設置されており、地域の子育てセンターとして、虐待相談だけでなく、障害をもつ子どもの相談、非行の相談などさまざまな子どもの相談をおこなっています。近年、虐待に関する相談が急増していますが、虐待問題は家庭からの相談にのり、虐待を未然に予防する役割、虐待をうけた子どもを保護する役割、さらに虐待をうけた子どもが家庭にもどれるように家庭を援助する役割があり、解決までにもっとも時間を要する相談となっています。

 現在、各センターに配属されている児童福祉司(ケースワーカー)は、ヨーロッパの4~5倍の1人当たり約80件の虐待相談をかかえ、ていねいな援助をするにはほど遠い環境です。児童福祉司、児童心理司の大幅な増員が必要であり、また虐待をうけ、傷ついた児童を保護する一時保護所は府下に1ヵ所、大阪市に1ヵ所しかなく、大幅増設が求められています。

 保育所・幼稚園・学校・学童保育所などでの早期発見と対策を

  児童虐待を最初に察知できるのは、保健所、病院、幼稚園、保育所、学校、学童保育所といった公的機関であり、近隣住民です。西区の事件でも保育所に行っていれば救えたはずです。保育を必要とするすべての子どもに保育所は保障されなければなりません。大阪では本年4月1日現在の待機児は1396人となっていますが、これから働くことを希望している母親の子どもは含まれていません。多くの保育所が地域の子育てセンターの役割を担い、在宅の子どもを育てる母親の育児相談などをおこなっています。今こそ、すべての保育所がその役割を果たせるよう、保育予算を大幅に増やし、認可保育所の増設、保育士の正規採用や研修に力をそそぐことが必要です。

 学校の保健室は虐待の兆候を知る機会が多く、全学校に少なくとも養護教諭2人配置が必要です。教員の非正規採用を正規職員に切り替えること、30人学級の早期実現も切実です。また近年、発達・学習障害をもつ児童が増えていますが、そうした子どものための支援学校、学級の充実も求められています。民間の児童養護施設なども職員配置を増やし、ゆとりをもって子どもに接することのできるようにすることも必要です。

 保健所や保健センターの役割も重要

  97年「地域保健法」の施行により保健所の統廃合がすすみ、大阪市内は1ヵ所に集約され、府内のすべての支所が廃止になり事実上半減しました。現在、保健所がおこなっている、障害児や低体重児などの療育支援は、子育ての困難が高い家族にきめ細やかな家庭支援を続けることで子どもの発達を促し、虐待を未然に防止する力になっています。市町村が設置する「要保護児童対策地域協議会」で、保健所は専門性を発揮して貴重な役割を果たしており、保健師の増員が求められています。

 また、市町村の保健センターで実施されている生後4カ月までの「こんにちは赤ちゃん」訪問事業で出会えなかった家庭や、乳幼児健診の未受診の家にコンタクトをとるなど、支援を必要とする家庭を見逃さないようにすることも大事です。

 地域社会のネットワークづくりを

  子育てを見守る地域社会こそ、虐待防止の大きな力として回復する必要があります。地域住民の中から子育てを支援しようと自主的なとりくみが広がっています。また、市町村がおこなう「次世代育成支援対策」のなかで、気軽に相談できる相談体制、総合的な子育て支援の充実をはかることが求められます。 大阪のある自治体では、保育所、幼稚園、小中学校、学童保育、保健所、医療機関、子ども家庭センター、児童養護施設、民生委員、児童委員などをつなぐ「子ども相談ネットワーク」化をすすめ、支援を必要とする0歳~18歳の子どもと家庭に、個別ケース検討会議を設けるなど、子どもの育ちをつなげる系統的な援助を行っています。また、すべての学校にスクールソーシャルワーカー(※)を配置するなど、ネットワークの中心に専門職としての公務員をきちんと配置することが大切です。

※スクールソーシャルワーカー=子どもの困難を子どもの立場で解決するため、親と学校の調整や地域にある専門分野をつなぐ専門家

3、〝安心して子育てできる社会へ〟の一点で力をあわせましょう 

 なぜ虐待は増え続けるのか―雇用の不安定による貧困化と、家庭の孤立化   

 2009年に公表された全国児童相談所長会の調査報告によると、虐待につながる要因として、33・6%が経済的困難であり、不安定就労16・2%を加えると、半数が「貧困」を背景に虐待がひきおこされていることがわかります。特に大阪の母子家庭の48%は年間総収入150万円以下です。ダブルワーク、トリプルワークなど、昼夜働いているお母さんも少なくありません。家庭の貧困は子育てに不可欠である時間や情報、ゆとりを奪い、養育放棄(ネグレクト)が増えているように、子どもの虐待の直接的、間接的な要因となっています。また、生活や子育てに困った時、気軽に相談したり頼れる親や友人が身近にいない人が増えており、虐待を未然に防止できない要因ともなっています。 

 とくに若い世代の経済的貧困の増大

  大阪府が今年3月に公表した非正規労働者のヒアリング結果によると、月収が20万円未満の青年は42・9%。若者の半数が低賃金のため親から自立できず、親もとで暮らす人が6割で、非正規同士の夫婦もめずらしくありません。夫婦どちらかの失職、また出産により、ただちに貧困家庭に転落する危険性が増大しています。生活の不安定さは子育ての不安を生みます。直面する貧困問題の解決は国政と地方政治の大きな課題です。

 政治を変え、働くルールをとりもどし、生活を守るためにも、若い世代が憲法にもとづく国民の権利や、福祉制度について自らのものとして学び、活用していくことが重要です。学ぶことは“自己責任論”を乗りこえる大きな力になります。

 世界の流れは、子どもの権利を尊重し、「教育・しつけ」の名による体罰を否定

  日本政府も批准している国連「子どもの権利条約」には、子どもは保護と援助をうける権利があり、さまざまな権利を行使できるとあります。しかし、これまで日本政府は「子どもの権利」について消極的な態度をとり続けてきました。このことは、今年6月、国連子どもの権利委員会の日本政府への勧告でも、強く指摘されました。

 勧告では、貧困が親子関係を崩壊させていることをはじめ、「子どもの権利と財界」の項目をはじめて設けて、子どもの福祉や成長発達にたいする企業の社会的責任に触れました。さらに、「教育・しつけ」の名による体罰が行なわれていることが問題視され、子どもにたいするいっさいの暴力を禁止することを求めています。日本の子どものために使われる予算の割合は、ヨーロッパの3分の1で、子どもの貧困率が14%と高く、保育所の低い予算、教員の削減など、子育て支援策が先進国の中でも大きく立ち遅れていることも当然指摘されました。

 日本共産党は、子どもの権利委員会からの勧告を広く知らせ、市民・NPОなど関係団体とともに、子どもの健やかな成長を実現するあらゆる施策の拡充を求めていきます。

 憲法の精神を生かし、すべての子どもが大切に育てられる社会へ

  日本国憲法にもとづき1951年に制定された児童憲章は「児童は、人として尊ばれる。児童は社会の一員として重んぜられる。児童は、よい環境のなかで育てられる」として、「すべての児童は、心身ともに健やかに生まれ、育てられ、その生活を保障される」など12項目にわたって子どもの権利を保障しています。また、児童福祉法は「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と定めています。さらに、地方自治法は自治体の役割を「住民の福祉の増進を図ることを基本」としています。

 日本共産党は、子どもを虐待から守る環境づくりのためには、今こそ、国と自治体が子育ての責任を発揮し、政治の力で暮らし応援の経済政策へ大きく切り替えることが重要だと考えています。日本国憲法と地方自治法、児童憲章を実現する立場で、すべての子どもが大切に育てられる運動をすすめましょう。

 子どもはこの国の未来です。子どもの健やかな成長へ、安心して子育てできる社会への一点で語り合い、子どもの虐待をなくすために力をあわせていくことを心から呼びかけます。

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