政策・提言・声明

2013年05月17日

府立大学と市立大学の「統合」計画を撤回し、府民・市民の立場からの大学改革へ

憲法が保障する学問の自由・大学の自治を擁護して

2013年5月17日
日本共産党大阪府委員会学術文化委員会

 大阪府と大阪市は4月、大阪府立大学と大阪市立大学を「統合」する「新大学ビジョン(案)」の内容を決めました。今後、今年8月を目途に大阪府・市、両大学で策定する「新大学(案)」のなかで、より具体的な内容をとりまとめるとしています。

 「新大学ビジョン(案)」は府民と市民にとって、大学関係者にとっていいものなのでしょうか。

 私たちは、「新大学ビジョン(案)」の主な問題点を明らかにするとともに、府民・市民の立場からの府立大学と市立大学の大学改革の方向について提案し、府民的討論と共同を呼び掛けます。

大阪府・市「新大学ビジョン(案)」の問題点

 「新大学ビジョン(案)」は、府立大学と市立大学を「統合」し、2016年度にも新大学を発足させ、「学部」と「学域」を併存させたうえで「重複分野の見直し」を行い、「地球未来理工学部」(仮称)や「人間科学域」(同)など新学部・学域・学科を再編・設置、「教員人事の一元化」など理事長・学長のガバナンス(統治)を強化するとしています。「新大学の理念」として、「強い大阪を実現する知的インフラ拠点」をめざし、「研究で世界と戦う大学」などを掲げています。

 「新大学ビジョン(案)」は、その進め方も内容も重大な問題点をもっています。

(1)憲法が保障する学問の自由・大学の自治からみてどうか

 まず、憲法が保障する民主主義と学問の自由・大学の自治の原則からみてどうかということです。憲法は第23条で「学問の自由は、これを保障する」と定めています。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、大学の自治の意義について、「自治は学問の自由が機関という形態をとったものであり、高等教育の教育職員と教育機関に委ねられた機能を適切に遂行することを保障するための必須条件」であり、「加盟国は、高等教育機関の自治にたいするいかなる筋からの脅威であろうとも高等教育機関を保護すべき義務がある」(「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」1997年)と述べています。

 こうした憲法と民主主義の立場、世界の流れからみれば、公立大学の統合を行うかどうかは、府民・市民の意見を聞き、大学関係者の民主的議論と合意を経て、決められるべき問題です。とりわけ、政治権力が大学統合の方向性を定めて大学に押し付けることはあってはなりません。

 ところが、「新大学ビジョン(案)」は、大学を構成する学生や院生、教職員のあいだでの自由な議論を抜きに、また、府民と市民の意見をほとんど聞かずに、橋下・「維新の会」主導の府市統合本部のもとで、問答無用で強引に推進されてきました。「新大学ビジョン(案)」のもとになった「提言」を策定したのは、「大阪府市新大学構想会議」(会長は矢田俊文北九州市立大学前学長、副会長は上山信一慶応大学教授)でした。この会議を構成する6人の委員のなかには府大と市大の大学関係者は一人も含まれていません。

 また、橋下徹市長は2012年5月の市大経営審議会で、「市大では、教授会による運営をなくし、組織で一番肝心であるマネジメント改革にしっかりと取り組んでいただきたい」と述べ、学校教育法第93条の「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」という規定を敵視しました。

 これらは、憲法が保障する民主主義と学問の自由・大学の自治を踏みにじるものです。

(2)特定の大学観と「大学リストラ」を押し付け

 次に、「新大学ビジョン(案)」の内容上の問題点はどうでしょうか。「新大学の理念」として、「強い大阪を実現する知的インフラ拠点」をめざし、「研究で世界と戦う大学」などを掲げています。

 これまで、府立大学が大学改革の要点としてあげてきたのは「公立大学として地域貢献の充実」などであり、市立大学が大学として今後の方向性として掲げていることは「都市大阪のシンクタンク、『都市科学』分野の教育・研究・社会貢献」などです。

 それぞれの大学が掲げている目標との関係からみても、「新大学ビジョン(案)」が「大学の理念」を上から大学に押し付けていることは明らかです。「維新」・財界流の特定の大学観、大学のあり方を大学に押し付けることは許されません。

 加えて重大なのは「選択と集中」の名で、“強いところはもっと強く、あるいは弱くしないという発想、選ばれないところはカット、あるいは再編成という”考え方で、両大学の「重複分野の見直し」をやろうとしていることです。大学の学部や学科は同じ名前であっても、その教育研究内容には歴史もあり伝統もあり、かかわる研究者、院生、学生も同じではありません。それぞれの学部・学科に存立の意義があります。乱暴な「重複分野の見直し」で「大学リストラ」をやるというのです。

(3)大学の教育研究条件と学生の学費負担はどうか

 「新大学ビジョン(案)」の内容上のもう一つの問題点は、大学の教育研究条件と学生の学費負担はどうかということです。

 大阪府は府立3大学統廃合・法人化、再編をつうじて運営費交付金を20%削減(2005~2012年度)、大阪市は市立大学法人化をつうじて運営費交付金を25%削減し(2006~2012年度)、教員を減らし、職員を非正規化、市大は夜間学部を廃止して、両大学の教育研究条件を悪化させてきました。他のいくつかの都市の公立大学運営費交付金の削減率(6~14%)と比べても異常です。運営費交付金の削減は大学の基礎研究はじめ研究基盤を掘り崩し、日本と大阪の学術研究の発展にとって深刻な影響をもたらします。「新大学ビジョン(案)」は、今後の大阪府・市からの運営費交付金をどうするかにふれておらず、大学「統合」による運営費交付金の大幅な削減が危惧されます。

 また、学生が負担する授業料や入学金、入学検定料については「国立大学の水準や受益者負担の考えも踏まえつつ、継続して検証・検討する」とし、大学授業料値上げの口実とされてきた「受益者負担」論に、いまだにしがみつく姿勢です。世界の流れは学費無償化であり、国民の世論と運動に押されてようやく昨年9月に日本政府が留保を撤回した、国際人権規約の高校・大学の段階的な無償化条項を具体化するかどうかがいま、問われています。

府民・市民の立場からの大学改革の方向について
――日本共産党の大学改革提案

 こうした「新大学ビジョン(案)」の問題点を踏まえ、私たちは、府民・市民の立場からの府立大学と市立大学の大学改革の方向について、つぎの5項目の提案を行います。

(1)府大と市大の「統合」計画を撤回し、府民・市民の立場から大学改革プランを確立します

 まず、進め方も内容も重大な問題点をもつ「新大学ビジョン(案)」――府立大学と市立大学の「統合」計画は撤回し、府民・市民の立場から大学改革プランを確立します。

 大阪府と大阪市は、社会の知的基盤としての府立大学と市立大学の発展を応援し、科学・技術の調和のとれた振興をはかります。大学の危機打開へ「学問の府」にふさわしい大学改革をすすめます。

 大学の統合・再編は、政治権力が押し付けるのではなく、大学での教育研究を充実させる見地に立って、学内合意を基礎にした大学間の自主的な話し合いと、地域の意見を尊重することを前提とします。

(2)政治権力の大学への介入をやめ、学問の自由・大学の自治を守ります

 世界で形成されてきた「大学改革の原則」は、「支援すれども統制せず」であり、大学の自治を尊重して大学への財政支援を行うことです。大学に資金を提供する側と、教育研究を担う大学との関係を律する基本的なルールとして、この原則を確立します。

 政治権力の大学への介入をやめ、憲法が保障する学問の自由・大学の自治を擁護します。

(3)大学の日常的運営に必要な経費の増額をはかります

 府立大学と市立大学の日常的運営に必要な経費(基盤的経費)、運営費交付金の増額をはかり、じっくりと教育・研究できる大学へ条件整備をはかります。

 両大学は、日本と大阪での学術の進歩に貢献し、住民要求に応えた高等教育を行い、大阪の文化、経済の発展に寄与しています。地方交付税の大学経費を引き上げ、大学に対する国庫補助制度を確立するなど、国の財政支援を強めます。

 大学での教育研究の健全な発展のため、大学教職員の雇用は正規を基本とします。

(4)学生の学費負担の軽減、段階的な無償化に踏み出します

 大学でお金の心配なく学び、将来に希望をもって研究したい若者の願いを実現するために、学生の学費負担を軽減し、段階的な無償化に踏み出します。授業料減免制度の拡充、奨学金制度の無利子化、給付制奨学金制度をつくります。

 大学・研究機関の人件費支出を増やし、若手研究者の採用をひろげ、待遇改善をはかります。博士が能力を生かし活躍できる多様な場を社会に広げます。

(5)経済効率最優先の科学技術政策から、学術発展へ調和のとれた振興策に切り替えます

 大学での基礎研究を重視し、科学・技術の調和のとれた発展と府民・市民本位の利用をはかります。

 公正で民主的な研究費配分を行い、研究における不正行為の根絶をはかります。

 産業と学術の連携・協力――産学連携の健全な発展をうながします。産学連携は、大企業の利潤追求に大学が追随するような連携や、一方的な押し付けでなく、大学の自主性を尊重し、基礎研究や教育など大学本来の役割が犠牲にされないようにします。また、地域や地場産業の振興にも力を入れ、中小企業の技術力向上への支援を拡充します。

 女性研究者の地位向上、研究条件の改善をはかります。

府立大学と市立大学の発展へ力を合わせましょう

 橋下・「維新の会」は、「大阪都」構想を推進するために、“二重行政の解消”などと言って乱暴に、府立大学と市立大学の「統合」を押し付けてきました。これに対して大学関係者からは「私たちには何も知らされていない」、「どういう大学をめざすのか、そもそも明確でない」などの声が上がっています。学生が提出した「市立大学と府立大学の拙速な統合撤回を求める陳情書」が、3月26日の大阪市議会財政総務委員会で、日本共産党、自民党、公明党、民主系会派の賛成で採択されました(維新は継続審議を主張)。ここに大学「統合」に対する市民世論が示されています。大学卒業生らは市民集会でアピールを公表。府民・市民と大学関係者のあいだでの議論と運動が広がりつつあります。

 大阪府立大学は1949年に府立浪速大学(1955年に府立大学)・大阪女子大学として開学、大阪市立大学は1928年設立の大阪商科大学を経て戦後、1949年に大阪市立大学として発足し、両大学は多くの卒業生を社会に送り出してきました。府立大学と市立大学が、日本と大阪でこれまで果たしてきた役割は大きく、今後の民主的な発展が期待されます。

 日本共産党は、府民・市民、大学関係者のみなさんと力を合わせて、府民・市民の立場から「学問の府」にふさわしい改革をすすめ、府立大学と市立大学の発展へ力を尽くします。

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