政策・提言・声明

2022年02月09日

大阪にも日本のどこにもカジノはいらない

 大阪府・大阪市のカジノ誘致計画について、誘致先の「夢洲(ゆめしま)」(大阪湾の人口島)の問題点を含めて連載で考えます。(日本共産党大阪府政策宣伝委員会)

第1回 異例の負担  膨れ上がる税金投入

 日本へのカジノ誘致の動きは、コロナ禍と現職国会議員の汚職事件によって2年近く遅れていましたが、昨年8月の市長選挙で反対派市長の誕生した横浜市が撤退する一方、大阪府・大阪市、長崎県、和歌山県で動きが出ています。大阪では昨年12月21日に大阪府、大阪市、米国MGM・オリックスがカジノ計画案(大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画案)を公表し、一気に緊迫度が増しています。

 大阪市の松井市長はIR用地の土壌汚染・液状化対策などに市が約790億円を負担すると明らかにしました。「カジノには一円の税金も使わない」との自身の発言に反するだけでなく、これまで大阪市が行ってきた埋立地の契約にはない「異例の土壌対策費の負担」に批判が広がっています。「異例の負担」は、カジノ事業者の要求に応じたものであり、他の事業者が撤退して唯一残ったMGM・オリックスに大阪府・市が足下を見られた格好です。

 すでに夢洲・万博の会場建設費が600億円も上振れし、地下鉄延伸工事で96億円、夢洲駅周辺整備で33億円など相次ぐ負担増が明らかになる中、さらなる税金投入への批判は当然です。また、「異例の負担」によって今後の訴訟リスクも懸念されています。

 さらに、大阪港の埋立事業の「港営事業会計」が破綻し市民負担につながる可能性があります。大阪港湾局は昨年11月の市民団体との懇談のなかで「港営事業会計」の赤字転落の危険性を認め、その場合に「大阪市全体で対応する」と回答して市民負担の可能性を認めました。

第2回 大阪IRの概要 35年契約

 年末の12月21日に大阪府、大阪市、米国MGM・オリックスがカジノ計画案を公表しました。4月に国に申請を行うための手続きが急ピッチですすめられ、IR整備法で規定される「地域住民の合意」の手続きとして公聴会の開催などが行われます。その後、2、3月の大阪府議会・大阪市会で「同意」をとりつけ、秋頃に国が「認定」すれば、2029年~32年の開業をめざすカジノ事業者との35年間もの長期契約を結ぼうという計画です。

 2057年までの長期契約はまさに孫子の代にまで及ぶものですが、4年に一度の首長選挙で反対派が当選し、大阪府・大阪市の側から契約解除を求めることになれば、府・市は事業者の損害を賠償しなければなりません。そのため、事実上後戻りできない仕掛けになっています。

 昨年9月末、吉村知事が事業者をMGM・オリックスに決定したと発表すると、すべてのテレビ局が、カジノ事業者から提供された動画を一斉に放映し、バラ色のイメージを「宣伝」しました。横浜市の失敗に学んだカジノ事業者による地域住民への啓蒙作戦にも見えます。

 しかし、計画案ではカジノの収益(4200億円/年)がIRの収益全体(5200億円)の8割と見込んでおり、IRはカジノ無くして成り立たない、人の不幸を踏み台にする施設なのです。

第3回 住民説明 形だけの「意見募集」

 松の内の1月7日に大阪府・大阪市は1回目の住民説明会(定数100人・1時間30分)を開催。1時間かけたカジノ計画案(概要)の説明の最後に「広く府民から意見募集している」と強調します。しかし、質問への回答には事実を伝える誠実さはなく、発言を求めて挙手する参加者の多くが指名されないまま30分程度で質疑が打ち切られ、会場には怒りの声が響きました。

 「府民・市民の理解を深める」ためとして、住民説明会を11回、公聴会を4回(公述人20人・傍聴60人)、1月21日までのパブリックコメント(意見公募)の募集を発表したのが昨年12月23日。年末年始をはさんだ日程であり、事前予約が必要な公聴会の申し込み締め切りが1月8日までなど、880万府民に計画案を周知し理解を広げる姿勢はありません。

 IR整備法で大阪府が求められている「公聴会の開催その他の住民の意見を反映」を形式的に終わらせたい意図が透けて見えます。

 35年間もの長期にわたるカジノ事業者との契約は、大阪府・大阪市の未来を左右する重大テーマです。カジノ・IRへの賛否に関係なく、すべての府民にとってその内容を知ることは当然の権利です。

 まして、カジノ誘致計画に対する「地域住民の合意」がないもとでの、議会での計画案への同意議決の強行は絶対にあってはなりません。

第4回 依存症量産 ターゲットは日本人

 大阪のカジノ計画案には「ギャンブル依存症対策」がうたわれていますが、大王製紙元会長のようなギャンブル依存症を必ず発症させる施設であり、誘致しないことが最大の対策です。

 説明会(7日)では「ギャンブル依存症が必ず出るとの認識は?」との質問に担当者は回答を回避し、「懸念事項対策」にとりくむと説明するだけ。まるで住民の「懸念」に対して対策していると言わんばかりでした。

 IR整備法によるギャンブル依存症への「規制」にはいくつもの問題が指摘されています。

①カジノの床面積はIR施設全体の3%とされていますが、大規模な施設となる大阪の計画案では6.5万平方㍍もあります。これは昨年コロナワクチンの接種会場になった大阪国際会議場(6.75万平方㍍)が丸ごと賭博場となる規模です。

②入場回数の規制が7日間で3回までとされていますが、1回で24時間滞在できるため、7日間で実質6日も“入り浸り可能”となります。

③カジノ事業者が「特別貸付業務」として客個人への資産調査の権限を持ち、賭け金の貸出しが可能――カジノと貸金業の二重取りです。

 計画案が示すカジノへの日本人の入場者予測は年約1067万人。「433万人」としていた2019年のIR基本構想時の2.5倍です。大阪のカジノに参入するオリックスは、昨年11月の決算説明会で「客は全員日本人」と株主に説明しています。大阪カジノのターゲットは日本人なのです。

第5回 銀行融資 責任銀行原則に反す

 大阪のカジノ「計画案」には「初期投資額は1兆800億円」という米MGMとオリックスの提案がそのまま盛り込まれ、約7800億円が建設関連投資だとしています。

 その資金計画の内訳は、「大阪IR株式会社(予定)」への企業の出資が約5300億円(49%)、金融機関からの借入が約5500億円(51%)というものです。

 出資はMGMとオリックスがそれぞれ40%、残り20%には大阪ガス・関電・パナソニック・大林組など20社が名前を連ねています。また、借入では三菱UFJ・三井住友から融資を約束した一札が入れられています。

 しかし、出資や貸付の目的がカジノ誘致であり刑法で禁じられている賭博です。人の不幸が儲けの源泉であるカジノ事業に名乗りを上げている大企業の社会的責任が問われています。とりわけ銀行は国連が提唱している社会や環境にとって望ましくない「武器・麻薬・ポルノ・ギャンブル」などには投資しないという「責任銀行原則(PBR)」(※参照)に三菱UFJ・三井住友の両銀行とも署名しています。自らの国際的な公約を踏みにじる行為への批判は免れません。

 気候危機に直面する地球、人類の生存のため今後10年、20年は決定的な期間です。世界中からヒト・モノ・カネを呼び込み、24時間眠らない街・IRを10年後に開業するという「計画案」が必要なのかが厳しく問われています。住民合意なく3月議会での決定強行は絶対に許されません。

第6回 「経済効果」 マイナス面を隠す

 カジノ計画案には経済波及効果として、建設時に1兆5800億円、開業以降に年1兆1400億円など華々しく宣伝されています。一方、ギャンブル依存症の増加、風俗悪化、犯罪増加などによるマイナスの経済効果額の調査・公表を求める強い声には一切耳を傾けません。

 年間1兆1400億円の経済波及効果額は、IR開業によって近畿2府4県と福井県にもたらされる効果を「産業連関表」によって試算したとしています。ところが、肝心のIRの収益の8割の4200億円は博打(ばくち)で消えるお金であり、飲食・観光のように他に波及することはありません。逆に観光客の消費支出をカジノが取り込み、近畿圏の経済にとってマイナスになります。

 さらに、計画案ではカジノ施設への日本人などの入場者数を約1070万人と見込み、2019年12月のIR基本構想(約430万人)の2.5倍に膨らませています。これは新型コロナウイルス感染症による世界の変化をまったく無視した過大な見込みです。IR開業による「経済波及効果」は、このように二重三重に誇大に粉飾されています。

 韓国の政府機関が、カジノによる勤労意欲の減退や家族離散など地域社会の崩壊などによる経済損失が、経済効果の4.7倍もあると報告しています。マイナス面を隠しての強行は許されません。

 大阪の確かな未来を確保するため、住民参加と住民の合意こそ求められています。

※「しんぶん赤旗」(近畿面)2022年1月19日、21日、22日、28日、29日、2月1日付に掲載されました。

 

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