政策・提言・声明

2012年06月17日

【シリーズ】これが自治体のやることか ~橋下「改革」の現場から(2)

生活保護受給者の医療機関登録制度 医療受ける権利を侵害

登録病院以外利用できない

 橋下徹大阪市長は、「西成特区構想」の一環で、「過剰診療・過剰処方を抑制する」として、大阪市西成区の生活保護受給者について、「医療機関等登録制度」を8月から導入しようとしています。

 原則として1診療科について1医療機関、1受給者1薬局をあらかじめ「医療機関等登録証」に登録し、医療機関や薬局の利用時にこれを提示させることで、登録していない医療機関や薬局の利用を認めないというもの。

 登録した医療機関だけに「医療券」を発行し、救急時を除いて登録外の医療機関を受診した場合は、医療費を自己負担とすることもありうると言います。

 主治医が登録外の専門医への受診・検査が必要と判断すれば紹介状を出しますが、担当ケースワーカーの承認を受けて登録先を変更してもらった上で、新たな「医療券」を発行してもらう必要があります。

 制度導入に向けた「お知らせ」が、4月から対象者に届けられていますが、ある受給者の男性は「指定病院は内科だけのところで、午前の診療は一般の人、午後は前から決められた患者。昼から調子が悪かったら、どこに行ったらいいのか。医療券を出してもらえない。書き換えてもらえないなら、どこの医者に行っていいか分からない」と話します。

根拠もなく違法 病状の悪化も

 これに対し生活保護問題対策全国会議、全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連)、大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)、野宿者ネットワークなど27団体が4日、制度の撤回を求めて橋下市長宛ての要望書を提出しました。

 全国会議事務局長の小久保哲郎弁護士は記者会見で、国連人権規約や憲法で保障された「適切な医療を受ける権利」を、西成区の生活保護受給者に限って侵害するものだと強調。登録先の変更で手間が増えることは、認知症の高齢者や、精神疾患や知的障害を持つ人、自己主張や対人交渉が不得手であることが多い生活保護受給者にとって、「極めて大きなハードルとなり、本来必要な受診を抑制し、病状を悪化させる恐れがある」と述べました。

 さらに小久保氏は「違法な事柄を、条例ではなく『実施要綱』で強制しようとするこの制度は、到底容認できない」と違法性を指摘しました。

 大阪市の保護費総額に占める医療扶助の割合は、99年59・2%から2010年45・0%へと大きく減少して全国平均(47・2%)より低く、西成区は43・4%と、「問題視する数字ではない」と述べ、過剰診療などを抑制するというなら、医療機関への効果的・効率的指導など、別の方法によるべきだと主張しました。

助かる命がなくなる事例も

 「単に西成区だけでなく、大阪市全体、府下、さらには全国に波及する恐れがある」

 記者会見でこう警告したのは、大生連の大口耕吉郎事務局長。登録医療機関の変更をめぐり、「医療資格のないケースワーカーが判断するのは問題。こんなことをしていいのか」と批判しました。

 橋下市長は「大阪都構想」を前提に、8月に就任する公募区長の下で、区政の決定権を局長から区長に移していくなど、区長の権限を強化。ところが今回、要望書の提出に当たって市担当局は、「これは西成区の問題」としてまともに対応しませんでした。

 大口氏は「これはおかしなこと。なし崩しは自治体でやってはならない。住民はたまったものではない」と抗議しました。

 大阪民医連の土井康文事務局長は、民医連の全国調査で受診抑制のために死亡した事例が11年度には67件あることを示し、「他の医療機関を含めるともっと多い」と指摘。「国民皆保険なのに、西成区限定で制限を設ければ、必要なときに必要な医療を受けられない。助かる命がなくなる深刻な事例もある。制度は撤回を」と訴えました。

(2012年6月17日付「大阪民主新報」より)

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