政策・提言・声明

2019年03月07日

大阪府民のいのちと暮らしをまもる防災対策強化への提言

2019年3月 日本共産党大阪府委員会 

はじめに

 大阪府全域に記録的な被害をもたらした台風21号から半年が経過しました。昨年6月18日には大阪北部地震(震度6弱)が発生し、9月4日には非常に強い勢力の台風21号が大阪府を直撃し、たいへん大きな被害をもたらしました。今も多くの府民が被害に苦しんでおられます。

 大阪に震度5強~6強の地震と津波をもたらすとされる南海トラフ巨大地震の発生確率は、今後30年以内に70~80%と予測されています。また、上町台地直下型地震では甚大な被害が予測され、さらに、台風の巨大化やゲリラ豪雨が頻発することが危惧されています。

 日本共産党大阪府委員会は、大阪がおかれたこうした状況をふまえて、「大阪府民のいのちと暮らしをまもる防災対策強化への提言」をまとめました。対策強化への一助になれば幸いです。

1.被災直後からの日本共産党の活動

 日本共産党は、被災直後に対策本部を立ち上げ、大阪北部地震発生の翌6月19日には、山下よしき副委員長・参議院議員、たつみコータロー参議院議員が現地を調査。台風21号では、特に被害の大きかった自治体をたつみ議員が訪問して首長との懇談、要望等の聞き取りを行いました。

 そして、宮原たけし府会議員団長をはじめ被災者の支援にあたってきた多くの地方議員が上京し国会議員とともに政府に対して要請と懇談を行うなど、被災者に寄り添った活動を重ねた結果、国の補正予算や運用確認で、①ブロック塀の撤去費用補助を6月に遡って実現、②屋根に残った震災瓦の撤去処理費用に国9割負担を確認、③農業用ハウスの破損に伴う撤去に10割・復旧に9割の補助、④盛土造成地の崩落防止への補助金の活用方法を国土交通省に確認、など重要な成果をあげることができました。さらには、猛暑対策として、小・中学校の教室へのエアコン設置費用の国負担の増額と対象事業の緩和、エアコン設置に伴う電気代の増加への予算措置も確認できました。

 2月7日の参院総務委員会では、山下よしき議員が、震災や台風被害の「一部損壊」世帯の深刻な実態を示して、支援対象の拡大に踏み切るよう政府に迫りました。

2.大阪府民のいのちと暮らしをまもる防災対策強化への提言

(1)復旧・復興のための緊急対策

  • 被災者生活再建支援法の適用基準を見直し、住家被害の99%を占める「一部損壊」世帯に支援対象を拡大すること、また、国の全・大規模半壊等への支援金の支給額を少なくとも500万円に引き上げることなど、法改正を強く求めます。
  • 地域経済や雇用を支える中小企業に対し被災状況に合わせた支援策を講じることが必要です。
  • 家屋や屋根の改修工事が業者・職人の不足で長期間待たされている実態があります。国が業者・職人の育成を行うとともに、大阪府としても業界やNPO団体などの協力を得て改修工事にあたる人員を確保すること、市町村を支援して業者への助成制度を設けるなどの抜本的な対策が必要です。
  • 被災した農林水産業者の「原状回復」をただちに支援すること。被災農業者むけ経営体育成支援事業は、建築確認申請を行っていない農業施設に対しても実情に応じて適用することが求められます。

 (2)人命第一で被害を最小限に抑える防災・減災対策の強化を

  • 地震による被害を最小限にくい止めるため、学校などの公共施設だけでなく、病院や大規模集客施設の耐震補強をすすめること。学校園など公共建築物におけるブロック塀などはただちに撤去し、民間ブロック塀の撤去を促進する事業の拡大が必要です。
  • 阪神淡路大震災では住宅の倒壊によって多数の人が圧死しました。一般住宅の耐震診断と耐震補強を計画的にすすめるため、横浜市や静岡県なみの助成制度の充実が必要です。また、長周期地震動による地盤の液状化が予測される地域を明確にした対策、さらには府下に多く残る密集住宅市街地の耐震化や防火対策の計画策定のテンポを速めることが必要です。
  • 大阪府が住宅リフォーム助成制度を創設し、木造住宅耐震改修補助制度や住宅の高齢者改修制度を復活させ、組み合わせて実施していくことが必要です。
  • 大阪市中心部では超高層ビルの建設ラッシュ、無秩序なまちづくりによって雑居ビルや老朽木造住宅が混在しています。また、駅ターミナルには人があふれています。こうした大都市の特別の実態をふまえた対策が必要です。
  • 大阪市内に存在する巨大な地下空間(地下街・大阪メトロ・民鉄など)の津波・大規模水害対策の抜本的強化が必要です。
  • 交通やガス・上下水道などライフラインの設備更新が急務です。大阪府域は、大阪市の上下水道の歴史が古いことなどもあり水道管の老朽化率が全国の2倍にもなっています。早いテンポでの計画的な更新が必要です。水道法改定による民間企業のコンセッション方式は国と地方自治体の責任放棄であり、国に負担を求め公的な責任で行うことが求められます。
  • 防潮堤の耐震化計画は、南海トラフ巨大地震での最大級の震度、津波の高さに対応したものに見直す必要があります。現在行われている防潮堤・水門の耐震補強工事についてはテンポの引き上げを求めます。
  • 河川堤防、がけ崩れや土石流などの危険区域、老朽化したため池など、災害危険区域の調査・点検をおこない、その結果にもとづく防災対策をすすめることが必要です。
  • 大阪府は河川維持予算を2倍に増やして、河川上流の森林整備や河川内の流木・土砂の撤去を強化することが必要です。
  • 石油や化学薬品の備蓄施設などが集積する臨海部の安全対策が求められます。南海トラフ巨大地震による津波でそれらの施設が破壊され津波とともに流れることにより火災被害が広がることが予測されています。事業所まかせを改め、大阪府・大阪市の防災計画だけでなく臨海部一帯の防災対策に国が責任を持ち、国と地方と事業所が連携して、消防・防災・避難体制を抜本的に強化することを求めます。
  • 東日本大震災以後に災害救助法が改正され、より小さい単位で「地区防災計画」を立てることができるようになりました。行政と住民が一体となってタイムライン(防災行動計画)を立てるべきです。行政による「自助」の押し付けにならないように注意しつつ、地域住民による防災活動を行うことが求められます。また、「避難者行動要支援者名簿」の災害時の安否確認の活用策や、国が求める「避難者行動要支援者の個別避難計画」について、行政が専門職員などを配置するなどして住民とともに策定することが必要です。
  • 数万人におよぶ外国人旅行者の安全確保へ適正に避難誘導を行うための対策を講じること、多言語によるSNS等での情報提供なども必要です。国とも連携し適切に対応するよう検討を急ぐべきです。
  • 大阪府・市は、夢洲でのカジノ誘致や万博開催などに関連したインフラ整備への巨額の税金投入を中止し、減災対策へ思い切った予算措置を行うべきです。また、国に、リニア新幹線や高速道路よりも防災対策へ予算措置を行うように求めることが重要です。

 

(3)災害発生直後の「応急救助」体制の確立を

  • 災害発生の直後には、がれきの下からの救出など、命を救うための体制の確立が求められます。地方自治体では職員削減が続けられてきたため、いざ災害というときに対応できる職員の体制がありません。備えとして、消防職員や自治体職員の増員へと方針の転換が求められます。また、消防水利の整備が必要です。さらに、地域コミュニティ・隣近所での防災力のアップのために日頃からのコミュニケーションの確保、防災訓練などを計画的にすすめることが必要です。
  • 高齢者や障害者など避難行動での要支援者を行政が正確に把握し、安全に避難が行えるように「地区防災計画」を策定し、避難訓練で検証しておくことが求められます。
  • 地震や津波では助かったが、その後の関連死が大きな問題となっています。熊本地震では直接死の4倍もの関連死が発生しました。大きな原因には、避難所の劣悪な環境、車中泊などの避難生活などが指摘されています。内閣府が「避難所の生活環境整備等について」(通達・平成28年10月21日)を出しました。1)簡易ベッド、畳、マット、カーペットなどの整備、2)間仕切り用パーテーションの設置、3)冷暖房機器、テレビ、ラジオの設置、4)仮設洗濯場(洗濯機、乾燥機を含む)、簡易シャワー、仮設風呂等の設置、5)仮設トイレの設置、また、高齢者、障害者等の要配慮者が使いやすい様式の仮設トイレを必要に応じて設置すること、さらに、「炊き出し等の食品の給与」についても触れています。これらに基づき、避難所を整備することが必要です。
  • 被災者の心のケアに対応できる専門職員の配置が必要です。
  • 全学校園の体育館・講堂に空調設備を設置することが重要です。この設置費は全額地方債でまかない、その返済に対しては地方交付税を7割充当する措置(現在の緊急防災・減災事業債の仕組)を国においてつくるよう求めます。
  • 地域の防災拠点となる市役所・区役所そのものが地震や浸水被害を予測されているところがあり、代替え施設の確保が必要です。防災対策の拠点とはなりえない大阪府咲州庁舎からは早期に撤退すべきです。

 

 

 

 

 

資料  今年大阪を襲った災害の爪あと

 

(1)大阪府北部地震による被害(6月18日・震度6弱)

 家屋の損壊は55,000棟にもおよびその99%が一部損壊です。被災地では未だにブルーシートが目立ちます。ライフラインが破壊され老朽水道管の破損による断水、停電、ガスの供給がストップするなど市民生活に大きな被害をもたらしました。

 

人的被害及び住家被害 【2018年11月現在・大阪府】

 

人的被害(人)

住家被害(棟)

非住家被害

死者数

負傷者数

行方不明者数

全壊数

半壊数

一部損壊

合  計

369

18

512

55,081

817

 

 家屋の損壊は55,000棟にもおよびその99%が一部損壊です。被災地では未だにブルーシートが目立ちます。ライフラインが破壊され老朽水道管の破損による断水、停電、ガスの供給がストップするなど市民生活に大きな被害をもたらしました。

 

 

(2)台風21号(9月4日)による被害 【2018年12月現在・大阪府】

市町村

人的被害(人)

住家被害(棟)

非住家被害

死者数

負傷者数

行方不明者数

全壊数

半壊数

一部損壊

合  計

493

30

445

65,932

2,446

 

 台風21号による関西電力の被害は、1300本以上の電柱が倒れ大阪府内で最大97万軒が停電、1週間を経過しても完全復旧しないなど、府民生活に深刻な影響を及ぼしました。

 関西電力では停電の状況を自動的に把握するシステムに障害が発生し、ホームページを通じて停電地域や復旧状況を知らせることができなくなり、関電への問い合わせ電話もつながりにくい状況が続き、自治体には住民から「関電に電話がつながらない」との相談が集中しました。

 原因には、関西電力が原発を優先するために設備修繕費を大幅に減額し、職員を約6000人も削減したという大きな問題がありました。しかし、関西電力による「台風21号対応検証委員会報告」(12月13日)にはそのことへの反省はありません。