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大阪市廃止=「都」構想 住民投票の焦点

 大阪市廃止=「都」構想の是非を問う住民投票が、10月12日告示、11月1日投票で行われようとしています。その焦点をみます。

 住民投票が11月1日に実施されることが決まったとき、市民の中からは「なぜ新型コロナのこんな時に?」と声が出ました。松井一郎大阪市長は「目の前で、人がばたばた倒れているような状況で、医療崩壊がわかっている」状況にならなければ強行する姿勢を示しています。

 しかし、新規陽性者数が減少したとはいえ、コロナによる打撃でくらしや営業が壊された人は多くいます。収入減で厳しい経営に追い込まれた医療、介護や中小企業の人々は立て直しに追われています。

専門家から批判

 今、やるべきは、市民への支援と、「どたばた倒れ」ないようにする、そして「医療崩壊を起こさせない」ための対策です。無症状感染者を含めて把握・保護し、感染拡大を抑え込むためのPCR検査体制です。医療・介護・障がい福祉・保育・教育などの従事者への社会的検査の実施です。検査結果報告まで1~2日かかっているのを改善し、保護・隔離までの時間を短くする体制です。感染拡大防止と社会経済活動を維持するための対策です。

 維新は「府市一体、『バーチャル大阪都』でうまくやっている」とうそぶきます。しかし、実態はどうでしょう。「誰でも いつでも 何度でも」検査が受けられる体制を目指す「世田谷モデル」を、吉村知事は「必要ない」と切って捨てています。「うそみたいな本当の話。コロナに打ち勝てるかも」と、うがい薬を推奨した「イソジン発言」や「大阪は人工呼吸器を早めにつけている」などの科学的根拠のない発言には専門家から強い批判が出されています。

 大阪市は、全国各地で実施されたコロナの患者を受け入れた病院への支援や中小企業への無利子、信用保証料ゼロなどの独自のコロナ対策をしていません。

 「特別区になれば保健所も四つになる」と言いますが、その気になればすぐに増やせるもの。2025年まで一つも増やさないつもりでしょうか。

役割を投げ捨て

 こうした遅れの背景には、「二重行政の解消」を叫び、住吉市民病院廃止を強行、医療・公衆衛生分野の切り捨てをすすめてきたこと、「何でも民営化」で「公」の役割を投げ捨ててきたこと、「1人の指揮官」による独断の横行など、「維新政治」と「都構想」による間違った政治姿勢があります。前維新代表の橋下徹氏(元大阪府知事、元大阪市長)はツイッターで「現場を疲弊させている」と「反省」を口にしています。

 今、求められているのは、こうした姿勢を転換し、インフルエンザとコロナ両方の感染症が懸念される秋冬に向けた万全の体制整備と、くらし・経営の支援に全力を尽くすことです。住民投票ではありません。

●「社会経済活動を維持しながら、感染防止に努めるためにも、検査体制の拡充が不可欠」(茂松茂人・大阪府医師会長あいさつ、大阪府医師会ホームページ)

●「今の大阪府・市は新型コロナウイルス感染対策より大阪市解体の『住民投票』優先」「(今やるべきことは)PCR検査や発熱外来などの実施体制の構築、そして費用も人的補償も不十分な保健行政の改善である」(大阪府保険医協会評議員会決議、9月5日)

 住民投票の最大の争点は、くらしをよくするのか、壊すのかです。

サービスは後退

 「都」構想は、大阪市を廃止し、四つの特別区をつくるためコストが少なくとも1300億円(15年分)かかります。基本はすべて特別区の負担です。特別区は、財源がない自治体になり、大阪市が実施してきた特色ある市民サービスの切り捨て、後退は必至です。

 一方、大阪市廃止=「都」構想のためのムダ遣い1300億円をやめ、市民サービスに使えば、市民の願いは実現できます。

 さらに、政令市・大阪市の大きな権限と財源を市民のために使えば、医療、公衆衛生、介護など命と健康を守る施策を充実させることができます。新型コロナで打撃を受けたくらしと経営の立て直しや、今後増える社会保障の増大にも対応できます。くらしをよくし「明日の大阪」への展望が開けます。(表)

府の交付金頼み

 大阪市廃止=「都」構想では、特別区は財源の65%が府に吸い上げられ、財政は府からの交付金頼みとなります。新たな施策を展開したくても、自分でできなくなります。

 東京の特別区からは、東京都からの交付割合が固定化し、社会保障の需要増などの変化に対応しにくく、自治権は極めて制約されるとの指摘がされています。

 また、市町村事務とされている水道や消防なども府の事務になります。水道料金は府が決めます。府内で一番安い大阪市の水道料金を、府内並みにすると府が決めれば、大幅値上げになります。納税や料金は払うけど決定権はない―自治体とは言えない特別区の姿が鮮明です。

 くらしをよくするのか、壊すのか。自治の拡充か、破壊か―争点は鮮明です。

■【「都」構想では】

 大阪市・廃止分割に少なくとも1300億円ものコストがかかり、市民サービスが切り捨て、後退させられる

(例えば)

 18歳までの子ども医療費助成

 メトロ・バスの敬老優待乗車証(敬老パス)

 新婚・子育て世帯向け住宅ローンの利子補助

 塾代助成

■【大阪市のままなら】

 大阪市廃止・分割の費用はないので、新たに市民サービスができる

(例えば)

 子どもの医療費助成の窓口負担ゼロ(必要財源19億円)

 ひとり親家庭の医療費助成窓口負担ゼロ(4億円)

 重度障がい者医療費助成窓口負担ゼロ(13億円)

 30人学級実現(102億円)

 市立大学の授業料半減(16億円)

 介護保険料の17.3%引き下げ(85億円)

 保育士(勤続7年以上)の給与月4万円引き上げ(10億円)

しんぶん赤旗 2020年9月22日付

 大阪市廃止=「都」構想は破綻があらわです。

 大阪市を廃止し、特別区をつくるコストは、1300億円(15年分)もかかります。

 加えて、1市が四つの小さな自治体になるため経費が増えますが、国からの手当てはありません。その額は毎年、200億円にもなると試算されています。18歳までの医療費助成の所要一般財源は77億円、敬老パスは50億円、学校給食費の無償化は77億円ですから、その大きさは歴然です。

 膨大なコスト、経費増で、特別区になれば、前回みたように市民サービスの切り捨て、後退は必至です。

施設を大幅削減

 しかも、設計図には、プール、スポーツセンター、老人福祉センター、子育てプラザの大幅削減が盛り込まれています。(表)

 松井一郎大阪市長、吉村洋文知事は「今回の都構想では『現在の住民サービスのレベルを一歩も後退させない』ということを明確に約束」(『大阪から日本は変わる』)などといいますが、「協定書」にあるのは「維持するよう努める」だけです。「向上」どころか、「維持」の保証もありません。

 コストを抑制するとして、特別区の庁舎はつくらないとしたため、新たにできる「淀川区」や「天王寺区」の職員は、いまの大阪市役所の「中之島庁舎」に間借りします。区域外に「本庁」があるのは離島くらいという異常なものです。災害時に対応できなくなるなどの批判が相次ぎましたが、見直しはしないままです。

 大阪市と24区役所に設置することができる災害対策本部は、4特別区に設置されるだけです。大阪市の災害対策本部には消防局や水道局が入っていますが、消防も水道も府の事務になるため、府知事のコントロール下におかれます。

介護も保育所も

 全国一高い介護保険料の軽減は切実な願いです。大阪市のままなら一般会計からの繰り入れや、介護予防事業の充実などで値下げは可能です。ところが、大阪市廃止=「都」構想では、四つの特別区でつくる一部事務組合での事務になるため、特別区だけで値下げすることはできなくなります。

 今は、大阪市内の保育所にはどの区にあっても入所できます。四つの特別区になると、待機児が多数いるなかでは、特別区間で調整制度をつくったとしても区を超えての入所は困難になります。

 “大阪市廃止=「都」構想は、百害あって一利なし”の姿が鮮明です。

■財政試算に大幅削減が盛り込まれている施設

 市民プール    24カ所⇒9カ所

 スポーツセンター 24カ所⇒18カ所

 老人福祉センター 26カ所⇒18カ所

 子育て支援活動  24カ所⇒18カ所

しんぶん赤旗 2020年9月23日付

  「二重行政が解消できるなら賛成」―大阪市廃止=「都」構想をめぐってよく聞かれる声です。大阪府や、大阪市が抱えてきたムダをなくすならいいこと、との思いでしょう。ムダを省くことは当然です。しかし、これまで病院も、大学も、図書館も、体育館も、「府立」と「市立」があり、市民の暮らしにかかわって困るような「二重行政」や、「大阪市廃止」でなければ解決できない「二重行政」はありませんでした。

 維新がよくとりあげる「旧WTC(ワールドトレードセンター)ビル」と「りんくうゲートタワービル」は、「府市対立」のせいではなく、「府」も「市」も一体となって国の「ゼネコン浪費・巨大開発」にのめりこみ、失敗したものです。逆に、維新がすすめた「住吉市民病院廃止」は「二重行政廃止」の名による政策の失敗が明白です。

政策でこそ解決

 この政策の転換を図らなければ、今後、特別区でも、同じ失敗を犯しかねません。巨大ビル建設について、府も、大阪市も、「特別区で実施することはできないというものではございません」と答えています。特別区制度の東京でも都と特別区で長い対立が起きたことがあります。

 ムダ遣いをなくす課題は、制度いじりではなく政策によってこそ解決できます。

 松井一郎大阪市長は「今は二重行政はない」(8月21日、大阪市議会本会議)と言い切ります。では、何のための「大阪市廃止」なのか。「大がかりな制度変更を行うメリットが、いまだ判然としない」と指摘されています。

 松井市長の言う「司令塔の一本化」は、住民の意思を無視して府が大型開発をすすめるためです。

 「カジノは『大阪都』の試金石」と述べていた橋下徹元大阪市長は、カジノは「『大阪都』の話だ」「権限も用途地域のところは『都』が持つことになっている」と特別区長が反対しても推進できると公言しています。

必要なら手厚く

 維新は、二重行政のムダとして、病院、公衆衛生研究所、産業振興などを挙げ、住吉市民病院を廃止しました。とんでもない話で、くらしと経営を良くする施策は、二重、三重にやることこそ大事です。

 実際、こどもの医療費助成は、府が小学校就学前まで行っていますが、市町村は、それに加えて「18歳まで」などにしています。新型コロナ対策でも都道府県の対策に上乗せした支援が多くの市町村で実施されています。

 二重行政=すべて悪ではなく、くらし・経営の支援は、国、都道府県、市町村が二重、三重にやるべきです。

特別区でもできる

 大阪府市大都市局理事(阿形公基君) これら(旧WTCビルなど)の施設整備は、法令に定められた事務ではございませんので、制度として特別区で実施することができないというものではございません。

 (2015年2月27日、大阪府議会本会議の議事録)

しんぶん赤旗 2020年9月24日付

 大阪市を廃止・分割することの是非を問う住民投票は、2015年に続き、2度目です。住民投票にかけるためには議会での可決が必要ですが、過半数を持たない大阪維新の会は、公明党を篭絡(ろうらく)することに力を注ぎます。

 1回目の住民投票では、府議会、大阪市議会が制度案を否決しましたが、橋下徹大阪市長(当時)らが「官邸頼み」の闇取引で、公明党の態度を変えさせ、住民投票が行われました。

 今回も、公明党は17年4月に維新と住民投票の実施を密約。さらに19年4月の知事・大阪市長ダブル選後には、それまで反対していた「都」構想に「賛成」すると転じました。

 公明党が府内に衆院議席を持つ4小選挙区に、維新が対立候補を立てないことを取引条件にしての動きです。松井一郎大阪市長、吉村洋文知事は「住民投票」に至ったのは「奇跡のような形」(『大阪から日本は変わる』)とうそぶきますが、そこにあるのは、政争で大阪市廃止・分割をもてあそぶ醜い姿です。

維新の党利党略

 コロナ禍の下で住民投票をなぜ急ぐのか。各紙は次のように指摘します。

 「市関係者は、『ここ数年の大阪の経済はインバウンド一本で支えられてきた。都構想後の維新の政策の目玉は万博とIR。コロナで二つのカンフル剤の不透明感が増す前に住民投票をやってしまう方が得策だ』と強調した」(「毎日」4日付)

 「新首相が早期の衆院解散・総選挙に打って出るとの憶測が出始めた」「大阪維新幹部は『同日なら投票率が上がり、浮動票を狙うわれわれにとって有利な状況になる』と見立てを披露する」(「大阪日日」4日付)

 党利党略が浮き彫りです。

情報隠して強行

 松井大阪市長は、8月に大阪メトロが今まで以上に業績が上がり、今までの1・7倍にもなる配当・税収増、そしてプールなどを廃止する「改革効果」額を積み上げた財政シミュレーションを発表し、「特別区は赤字にならない」と宣伝しています。しかし、メトロは、4~6月期にコロナの影響で62億円もの赤字を出しています。新たに加えたメトロなどの配当金などがなくなれば特別区は大赤字です。

 しかも、大阪市は9日に来年度の税収が496億円減となることや、メトロの配当金はコロナの影響で、来年度は無配当になると試算しています。特別区は財政破綻の可能性が指摘されています。

 ところが、松井市長は「新たな試算はしない」と居直っています。

 市民が的確な判断ができる情報を隠して住民投票を強行する―。民主主義と無縁の維新の姿が鮮明です。

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しんぶん赤旗 2020年9月24日付

 新型コロナ問題を通じて、みんなが「明日の大阪」を真剣に探究しています。日本共産党は、住民投票で、大阪市廃止=「都」構想を否決し、さらに、大阪市の力をいかした「明日の大阪」をつくるため、六つの方向を提唱し、実現に全力をあげています。

公の役割発揮を

 維新は、経済効率優先、規制緩和、社会保障切り捨て、自己責任押し付けの「新自由主義路線」を大阪府・市政ですすめてきました。

 住吉市民病院を「二重行政だ」「年間5億円浮く」と廃止し、府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所を統廃合しました。府内の病床は、人口10万人当たりで1235床(2010年)から1202・7床(18年)に削減されました。保健師数も全国で下から2番目です。そのもろさが、新型コロナで明らかになりました。

 「医療・介護・社会保障が充実した安心の大阪に」「『何でも民営化』を改め、『公』の役割を果たす大阪に」は、大阪ではとりわけ切実です。

内需喚起を軸に

 維新は、カジノなどの大型開発による「成長戦略」を描いています。しかし、世界的には「パンデミック(世界的大流行)が過ぎ去ったと言える国」はなく、さらに今後も繰り返しての流行が懸念されています。インバウンド(訪日外国人旅行)・カジノ頼みの「成長戦略」の破たんは明らかです。

 今、大事なのは、内需と家計、中小企業を軸にした経済政策です。社会福祉への公的資金の優先投入で、くらしの安心をつくり経済を発展させる方向への切り替えです。

 大阪での医療、保健、福祉、介護への公的資金の投入による経済波及効果は、カジノなどのための人工島「夢洲(ゆめしま)」(大阪市此花区)でのインフラ整備による波及効果を上回ります。雇用誘発効果も、医療など4分野への資金投入は、夢洲インフラ整備の1・08~1・43倍にもなります。

 この転換こそ「明日の大阪」の展望を開きます。

共産党が提唱する「明日の大阪」をつくる六つの方向

1、医療・介護・社会保障が充実した安心の大阪に

2、みんな楽しく子育てできる大阪に

3、こども中心の教育、文化豊かな大阪に

4、消費と中小企業の活性化で景気回復させる大阪に

5、「何でも民営化」を改め、「公」の役割を果たす大阪に

6、誰もが大切にされ、尊厳をもってくらせる大阪に

 (おわり)