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関西財界戦略の中の橋下府政・平松市政

2011年08月05日

 日本共産党大阪府委員会の「秋の大阪市長選・府知事選に臨むアピール」(本紙7月24日付掲載)は、救援・復興、原発からの撤退への大きな転機をつくることと併せ、そのたたかいの位置付けを、こう述べました。
 「関西財界が橋下府政と平松大阪市政をテコに、地方自治破壊の道――『関西州』づくりへと突き進もうとする中で、財界・大企業がやりたい放題の大阪ではなく、その社会的責任を果たさせ、『府民・市民が主役』で、命と暮らしを守る大阪をよみがえらせるたたかいです」
 橋下知事がなぜ、「大阪維新の会」をつくり、「大阪都」や「関西州」へと突き進むのか。また、一見「対立」してみえる平松大阪市長が、なぜ「関西州」づくりでは同じゴールを目指しているのか。そして府・市政は、なぜ大企業優遇の「経済特区」づくりや「梅田」「湾岸」の集中開発は熱心なのに、福祉補助金カットや国民健康保険料の強制徴収など、府・市民に冷たい態度をとるのか。
 それを解く鍵は、関西財界戦略とその上に乗る橋下府政、平松市政の姿にあります。
 この点に絞って、みてみましょう。

(1)関西州とは――「ワン関西」の指揮官に関西財界が躍り出る

 「大賛成ですね…タウンミーティングで平松市長が関西州を目指していくなんていうような話をした…。非常に嬉しいですね。やっと大阪市も目覚めてくれたか」
 昨年7月、橋下知事記者会見の一節です。ここに出てくる「関西州」が、関西財界、橋下府政、平松市政の関係をとらえる一つのキーワードです。
 関西財界は、「国際競争力」の名の下に、“TPP(環太平洋連携協定)を結べ”“消費税を上げて法人税を下げよ”“派遣労働に規制を加えるな”と好き勝手な「成長戦略」を掲げます。その中で、「関西戦略」での最大の矛先は、この「関西州」にあります。
 関西財界が90年代後半から叫びだした「関西州」とは、どんなものでしょう。
 ことは「道州制」の一部であり、憲法改正を必要とするものです。彼らの「意見書」を追うと、「国の形を変える」ため、「集団的自衛権」から、「現代版教育勅語の制定」まで、本音むきだしの青写真が並びます。「関西州と大阪都」はこれと一体に描かれます(注1)。
 最近の「君が代」強制条例にみられる動きは、こうした関西財界の「靖国派」的流れの意をくんだものとして注意を要します。
 同時に、「関西州」で彼らが直接的に狙うのは、関西財界・大企業がやりたい放題で「成長戦略」を実行できる、そんな大阪・関西です。

関西財界、2府7県3政令市の共同プログラム

 ここに「関西州」の青写真を示した一つの文章があります。「関西広域連合のあり方に関する提案――関西にとって望ましい地方分権体制を実現するために」(2006年6月)。発表したのは、「関西分権改革推進委員会」――関経連など関西財界6団体のほか、大阪府・市など2府7県3政令市による構成で、副知事や助役などがズラリと名を連ねます。
 「関西広域連合」から「関西州」への道のりで、何を狙うか。この「提案」には、あけすけなプログラムが並びます。
 ――関西国際空港などの管理、重要港湾の整備は国から「関西広域連合」に移す。
 ――「関西広域連合」が処理することで、3空港の利便性拡大、広域高規格道路・都市高速道路ネットワークの機能、港湾物流機能、高速鉄道ネットワーク機能の極大化を推進することができる。
 ――「関西広域連合」の決定のあらゆる段階で関西財界がかかわる(注2)。

その道は「ルールなき資本主義の関西版

 要は関西財界・大企業の「成長戦略」に邪魔な国や自治体の規制は取り払う。財源も、権限も、彼らの思う通りの開発に注ぎ、その「指揮権」は関西財界が持つ――いわば「ルールなき資本主義」の「関西版・大阪版」を出現させようとしているのです。


(2)「関西州」への先導役、橋下知事の「大阪都」構想

関西財界に「教育」された橋下氏

 「関西州」について、橋下知事は、08年知事選当時、視野の外でした。それを公報でもうたったのは対立候補の熊谷氏でした。
 しかし、そこから関西財界による「教育」(関西財界セミナーで下妻関経連会長・当時)が始まります。就任間もない08年4月、関西経済同友会が、橋下知事に「『関西広域連合』への積極的参画と道州制の実現に知事は尽力すべき」という要望を突き付けると、橋下知事はすぐに応え、「維新プログラム案」で「関西州」を宣言します。
 次のステップは、WTC府庁移転問題でしょう。府庁移転そのものは、唐突に橋下知事が言い出したもので、いまも思惑通りに進んでいませんが、このとき大阪府と大阪市が連名で「都市構想(案)」を出します。そこにうたわれたのが「関西州」でした。
 それをみて関経連、大商、関西経済同友会は連名で、こんな緊急アピールを出しました。
 「大阪府知事、大阪市長は共同で関西州を見据えた『都市構想(案)』を発表した。…『大阪府・大阪市連携』の意欲的な挑戦として高く評価するとともに、大阪・関西の発展の起爆剤として大阪府庁のWTC移転を支持する」
 関西財界、橋下知事、平松市長が「関西州」づくりで一線に並んだ一コマです。
 以来、橋下知事は最近の震災問題にもかこつけて、ことあるごとに「関西州」や「関西広域連合」の旗振り役を担います。

「大阪都」構想の格別の役割

 「大阪都」構想は、この流れの中で昨年初頭から、にわかに叫びだしたものです。
 マスコミもこれをあおり、“風”を起こしている観がありますが、肝心要の「大阪都」の「設計図」は、いまだに出せずじまいです。ことし1月、豊中市のタウンミーティングで、知事はそんなもの、役人を200人動員して、2年ぐらいかけて議論しないと出せない≠ニうそぶきました。
 実は、奇妙なことですが、関西財界は、橋下知事の「大阪都」構想についての論評を避けます。その事情について、ある関西財界幹部は、こんな見方を教えてくれました。
 ――もともと「大阪府・大阪市合併で大阪州を」と言いだしたのは私たち。しかし、それは大阪市を強くし(グレーター大阪市構想)、府をなくしてから、「州へ」という絵を描いていた。でもいま橋下知事は大阪市をなくしてから関西州へと言っているでしょう。
 それでも、「大阪都」を「関西州」構想に位置付けてみると、狙いと役割は鮮明です。
 何より、「大阪都」は、初めから「関西州」への「一里塚」です。それは「大阪維新の会」が「バイブル」のように扱う上山信一氏の著書『大阪維新』でも鮮明です(注3)。
 そして、「大阪維新の会・マニフェスト」が示す通り、「大阪都」の仕事は「企業にもうけてもらう」という「成長戦略」です。関西国際空港と都心部を結び、「1分時間短縮に600億円」という「なにわ筋線」(鉄道)や淀川左岸線(道路)延伸、さまざまな大企業への税財政の特権を与える「経済特区」、果ては「カジノ」や「医療ツーリズム」(アジアの富裕層などを狙い、大阪で高度医療を受けさせ、人、物、金集めを狙う構想)……。すべて関西財界の注文通りです。
 さらに橋下知事が「大阪都」をアドバルーンにして地方自治破壊の突撃隊=「大阪維新の会」をつくったことは、そのまま「関西州」づくりへの突撃隊となるものです。また、「大阪都」構想によって、大阪市政がまだ踏み切れない「地下鉄民営化」に手を突っ込ませることも、欠かせない役割なのでしょう(『大阪維新』には柴島浄水場の売却構想も出てきます)。
 橋下知事が関西財界の「別働隊」――「関西州」への「先導役」として果たしている役割には格別なものがあります。

(3)関西財界は平松市政をどう位置づけているか

平松市政に「及第点」を与える関西財界

 それでは平松大阪市政は、関西財界にとってどんな役割を果たしているのでしょう。
 それを端的に述べた文書が、ことし5月関西経済同友会が出した報告書(注4)です。
 これはいわば橋下府政、平松市政に与えた関西財界の「成績表」です。ここで彼らは、「グローバルな都市間競争」を勝ち抜くための「安定し得た財政基盤の確立」「府政・市政改革」「成長戦略」などの「物差し」を当て、橋下府政に高い評価を与えつつ、平松市政についても、地下鉄民営化で注文を与えつつも、“及第点”を与えます。そして「大阪・関西がグローバルな都市競争力を高めることを実現し、大阪府・大阪市が戦略的な自治体経営の先駆者となることを期待したい」と結びます。

平松市長自身が「関西州実現」の道へ

 注目すべきは、この関西財界の評価、狙いが、いまに始まったものでないことです。
 平松市政誕生の時から追うと、07年市長選勝利に対して、関経連も、関西経済同友会も、「関西経済界としても最大限サポートする」とコメントし、「地下鉄民営化」などの要望を突き付けます。
 「関西州」について言えば、平松氏も、市長選では、視野の外でした。忠実だったのは、関氏(対立候補だった前市長)で、関西経済同友会の公開質問状に、「地方分権改革・道州制の議論が進む中、大都市の実態に即した『スーパー指定都市』、広域的な課題に対応する『関西州』の創設を国等にはたらきかけます」と答えています(この物言いは、いまの平松氏に重なります)。
 しかし、平松氏の視野はどうあれ、2006年の「関西分権改革推進委員会」文書にみられる通り、「関西州」づくりにかかわる大阪市の外堀は埋められていました。
 平松氏と橋下氏の下で大阪府・市の水道事業連携などが進むごとに、関西財界はこれを「道州制実現のための一里塚とすることを期待する」とコメントし、さらにどんどん注文を出していきます。
 そして、すでにみたWTC移転にかかわっての府・市合意――関西州を見据えて」の「都市構想(案)」発表も経て、平松市長自身が「関西州実現」の道へと踏み切ります。
 ――2010年8月、「地域主権確立宣言――住民自治と地域の再生のための真の自治確立 そして関西州実現へ」を発表。
 ――ことし1月、関西4都市市長会議で「関西広域連合へ国の出先機関の事務・権限の移譲が行われる段階には4都市が正式参加することを確認する」と合意。
 ――2月20日、平松市長「元気メッセージ」で、「関西の将来像を議論する中で、府県の仕事は、より広域の補完・調整に限定・転換されていくのではないでしょうか。そして現在の府県が将来的に『関西州』に一本化されていくのは当然の流れだと思います」。

関西財界と連携、一体となった「成長戦略」

 関西財界と一線に並ぶ姿は、ことし平松市政が出した「成長戦略」にも見て取れます。
 そこには「大阪駅周辺地区」(関経連は「大梅田」とネーミングしていますが、市の文書にもそのまま紹介されています)と「夢洲・咲州地区」に「国際戦略総合特区」を要望する。新たな関空アクセスの道路建設を意味する「ミッシング・リンクの解消」(これも関西財界用語です)をうたう。そして、「成長に向けた連携」のパートナーとして、「関経連」などを臆面もなく並べる…。
 平松氏は橋下氏の「大阪都」構想には一線を画します。しかし、ゴールを「関西州」に置くことや「成長戦略」では、違いを見つけることが困難です。関西財界が平松市政に「及第点」を与える根拠も、ここにあります。
 さらに、平松市政といえば、国保滞納者に対してその学資保険まで差し押さえる(あまりにひどく、差し押さえそのものは是正されましたが)。その冷たい姿が大きな怒りを呼び起こし、国会でも問題になりました。
 この点では、いま関西財界が「道州制をになう基礎自治体のあり方」として、“高齢世代の自己負担割合の引上げ幅を明記しろ”“生活保護や児童福祉、国民健康保険等は地方消費税引き上げでまかなえ”“法人税は下げろ。次の段階では地方法人2税は廃止しろ”と、言いたい放題になる姿が二重写しになっていることも付け加えておきます。

(4)大阪戦略でも、原発問題でも、府民世論に追われる関西財界

 府委員会「アピール」が述べる通り、大阪市長選・知事選の対決構図は、「大阪市解体の橋下知事」vs「大阪市を守る平松市長」ではありません。「大阪の地方自治を壊し、関西財界やりたい放題の大阪をつくる橋下知事・平松市長」vs「自治体らしい自治体を築き、大企業の社会的責任を果たさせ、府民・市民の命と暮らしを守る府民・市民の共同」かです。
 そして、この角度からとらえるなら、関西財界戦略のほころびもまた大きいことを強調したいと思います。
 だいたい「関西州」構想そのものが、1990年代からの「関空・ベイエリア」路線の破たんから持ち出されてきたものです。関西国際空港を造ったのに、大阪経済は逆に落ち込み、関経連さえ「関西経済は絶対的衰退」と嘆きました(99年の「関西経済再生シナリオ」など)。その破たんづくめの中で、「うまくいかないのは都道府県制度のためだ」と無理やり持ち出したのが「関西州」です。
 しかし、その道を付けるはずの「関西広域連合」に奈良・福井・三重各県は参加せず、参加した各県知事も、「道州制にはつながらない」ことを確認してようやくスタートしたように、思惑通りには進んでいません。
 「大阪都」構想を掲げた「大阪維新の会」も、元をたどれば「2大政党」の破たん、大阪の「オール与党」の破たんの、なれの果てに登場してきた一面を持ちます。
 橋下知事のパフォーマンスが一時の力を持ち、「橋下vs平松」などの偽りの対決構図がマスコミではまかり通っても、「関西州」を目指す関西財界路線と府民・市民との避け得ない矛盾は、消えるばかりか、さらに大きくなるでしょう。
 また、いま最大の問題でいえば、原発問題があります。関西電力、関西財界が「提言」「緊急連名アピール」を連発し(注5)、「それでも原発再稼働を」と迫るむきだしの執念は度し難いものですが、それ自身が府民世論に追われる姿をさらけ出します。「脱原発」を口にはし、「節電」問題では関電にものを言う橋下知事、平松市長ですが、この原発固執勢力に挑み、「原発からの撤退」に踏み出すのかどうか、根本から問われています。
 「2大政党」が共有する日本の古い政治の枠組みが、行き詰まりと破たんに突き当たっている――日本共産党第3回中央委員会総会決定の指摘は、大阪でもリアルな姿をみせています。それを打ち破り、大阪を関西財界から府民・市民の手に取り戻すたたかいとして、秋の大阪市長選・知事選で大きな一歩を踏み出しましょう(N)。


(注1)たとえば関西経済同友会「10年後のビジョン―目指すべき国の姿―『再び、誇りの持てる国へ』」07年5月1日
(注2)2006年6月「関西広域連合のあり方に関する提案 関西にとって望ましい地方分権体制を実現するために」から
 …関西広域連合を設置することにより…国土形成計画(広域地方計画)や関西圏の社会資本整備重点計画の策定権限などについて、国土交通大臣から関西広域連合の長へ移譲を求めたい。
【国からの移管を求める事務・権限等】
・第一種、第二種空港の管理…
 広域連合で処理するメリット・効果と課題
 …関西における三空港の利便性拡大、広域高規格道路・都市高速道路ネットワークの機能、港湾物流機能、高速鉄道ネットワーク機能の極大化を推進することができる。
 …広域連合の意思決定…。
 @長の諮問機関の設置
 条例で長の諮問機関を設置し、議会への議案(条例案・予算案)提出にあたっては、あらかじめ諮問機関の意見を聴くこととし、諮問機関の委員の一定の割合を経済界代表とする。
 A政策評価機関(第三者機関)の設置
 条例で関西広域連合の政策・施策の事後評価を行う機関を設置し、経済界から委員を登用する。
 B監査委員への登用
 必置機関である監査委員のうち、議員選出委員以外の委員は経済界から登用する…。
(注3)上山信一『大阪維新』から
 …「大阪維新」の目的は、「One大阪」の実現を通じて大阪の町を強くし、地域の自立を図ることです。そこからさらに、関西全体の自立を目指します(関西州)。
(注4)5月11日関西経済同友会大阪府・市経営改革推進委員会「大阪府・市は、大阪・関西のグローバルな競争力向上と日本経済全体の復権への貢献を目指し、行財政改革及び成長戦略の一層の推進と、府・市及び官民連携の更なる強化を〜橋下府政・平松市政における重要施策とその進捗状況について/同友会提言のフォローアップ評価を中心に〜」
(注5)「電力の安定供給にかかわる緊急要望」(6月24日 関西経済連合会 大阪商工会議所 京都商工会議所 神戸商工会議所 関西経済同友会)、緊急アピール「速やかに安定的な電力供給を望む」(7月11日 関西経済同友会代表幹事 連名)、「安定的な電力確保に関する緊急要望」(7月21日 大阪商工会議所関西経済連合会 京都商工会議所社団法人関西経済同友会神戸商工会議所)など(大阪民主新報2011年8月7日14日合併号より)

投稿者 jcposaka : 2011年08月05日

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