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新しい時期」の大阪での教育政策の方向について ――憲法と子どもの権利条約に立脚した教育への転換を

2010年01月07日

                           小林裕和

2009年8月の総選挙での国民の審判は、「過渡的な情勢」と特徴付けられる日本政治の「新しい時期」を開くものとなりました。
自公政権が退場し、民主党中心の新政権の下で、旧来の政治ではなかなか実現しなかった高校授業料実質無償化などの教育要求が実現されつつあります。同時に、その財源として特定扶養控除の縮小など庶民増税を充てようとしていることや、競争主義の教育といった旧来の教育政策を改める姿勢はみられず、今後の打開すべき大きな問題点となっています。
こうした中で、橋下府政の下で、府民の世論と運動が府政を動かし、高校授業料実質無償化など府民の切実な教育要求が実現されつつあることは重要な成果です。
これらを踏まえ、「新しい時期」の大阪の教育政策の方向について、いくつかの問題提起を行います。

●府民の世論と運動が政治を動かしつつある
高校授業料実質無償化へ 
 高校教育の無償化について、日本共産党の宮本岳志議員が昨年11月の衆院文部科学委員会で、一刻も早く実施することを求めたのに対し、川端文部科学大臣は「新たな支援制度(高校無償化)を来年(2010年)4月から導入できるよう国会の審議に付したい」と答弁しました。
また、中等・高等教育(中学・高校・大学)無償化の漸進的導入をうたう国際人権規約(A規約)13条(b)(c)項の批准を日本政府が留保している問題で、大臣は「留保撤回に向けた施策について検討を進めたい」と表明しました。
こうした国政の動きの下、昨年10月の大阪府議会教育常任委員会では、日本共産党の山本陽子府会議員らが“高校授業料の無償化”を求める中で、橋下知事は「(府立)高校の授業料を実質無償化していく」と表明しました。現行の府立高校授業料(年額144000円)は、国基準(同118800円)を25200円上回っていますが、事実上「全国一高い府立高校の授業料を引き下げて実質無償化する」(「読売」2009年10月23日付)ものです。
大阪市の平松市長も市立高校授業料(府立と同額)について、「府の中で市だけ高いのはおかしいと思うので…ぜひそこは合わせたい」(「朝日」同年10月30日付)と述べました。
さらに大阪府は、2010年度から私立高校授業料の一部実質無償化(年収350万円以下の世帯、55万円を上限)をおこなう方針であることを明らかにしました。これは、2010年度から導入予定の国の“授業料助成”と、府の“授業料助成”を合わせて充当し、学校に交付するというものです(同年11月2日)。また、知事は2011年度から年収500万円以下の世帯に拡大することも表明しました(同年11月11日)。
これらは、子どもをめぐる貧困が深刻な大阪で、府立高校授業料減免や私学助成の拡充を求める運動をはじめ、教育費負担軽減を願う府民・教育関係者と日本共産党の共同した長年の運動が実を結び政治を動かしつつあることを示しています。
高校授業料実質無償化は、教育を受ける権利をうたった憲法26条や子どもの権利条約28条などの具体化として重要な意義をもつものです。

公立高校入学定員増が実現
 大阪府教育委員会は昨年11月、2010年度公立高校募集人員を発表しました。今春の公立中学校卒業生は昨春に比べて約3500人増えますが、公私立高校への受入れについて、公立で7割、私立で3割を分担したうえで、公立高校への受入れを960人上乗せするというものです。府立高校では81校で合計91学級増となります。
 これは、今日の経済情勢のもと“公立志向”が強まるなかで、「現状の公立高校の募集枠では大量の不合格者が出ることが懸念」され、「高校就学を断念する生徒が出ないよう」(大阪府公私立高等学校連絡協議会「資料」2009年11月2日)打ち出されたもので、保護者や学校関係者から歓迎されています。同時に、定員増(学級増)に見合う教職員増など教育諸条件の拡充が求められます。
“15の春を泣かせない”――公立高校入学定員増は、希望するすべての子どもたちに高校教育への機会を保障するうえで重要な意義をもつものです。

教育要求実現にむけた運動をさらに
橋下府政のこの2年でみれば、小学校1・2年生での少人数学級(35人以下学級)の継続や府立支援学校・障害児学校の新設計画(府内4地域−豊能・三島、北河内、中河内・南河内、泉北・泉南)など広範な府民と教育関係者、日本共産党の共同した運動で府民の切実な教育要求が実現しています。
そのうえで、総選挙後の新しい政治情勢のもとで、高校授業料実質無償化などの教育要求が実現しつつあることは重要な成果です。これらを後退させず、さらに後押しし促進する運動が大切になっています。

●大阪の教育政策――今後の打開すべき問題点は何か
 大阪府の橋下知事が推進する教育政策の問題点は、「全国いっせい学力テスト」への対応や府立高校「多様化・特色づくり」に見られるように、過度の競争教育と序列化を推進し、特定の教育内容や教育方法を学校現場に押し付けることにあります。
これらは「『大阪の教育力』向上プラン」(2009年1月、以下「教育プラン」)などで示されていますが、今日でも「教育プラン」を推進する姿勢を変えようとはしていません。

“全国学力テスト対策”のための教育でいいのか
大阪府は昨年11月、一昨年に続いて、「全国いっせい学力テスト」(小学校6年生と中学校3年生全員対象)の市町村別結果(教科別平均正答率)を公表しました。市町村別結果の公表は、一昨年すでに全国の9割以上の教育委員会が反対し、当時の文部科学大臣も「ルール違反」と批判していたことです。
「教育プラン」は、「全国いっせい学力テスト」の「各教科・区分の全国平均正答率を上回る」、「無回答率『0』の実現をめざす」といった「目標」をこと細かく列挙し、その達成を求めるもので、“全国いっせい学力テスト至上主義”ともいうべき、教育をゆがめる内容をもつものです。
新政権が「全国いっせい学力テスト」のあり方を見直し、「全員調査」をやめて、抽出率は30%と高く不十分ですが、「抽出調査」に変更する方針を示しているなかで、“全国学力テスト対策”を前面に押し出した「教育プラン」でいいのかが問われています。

過度の競争教育をすすめる「多様化・特色づくり」
加えて、「教育プラン」は、「特色づくりのさらなる推進」として府立高校10校に「進学指導に特色をおいた専門学科」(進学指導特色校、2011年度)を併置することなどを明らかにしています。
これは、府民と学校関係者の教育要求から出発したものではなく、子どもの成長・発達をどう保障するかの教育のうえでの観点も見られません。これまで府立高校統廃合と一体で進めてきた財界主導の「多様化・特色づくり」路線をさらに推し進めるものです。
すでに高校関係者からは、「『進学実績』のみを追求することは、入試のための『学力』向上に傾斜せざるを得ず、学習指導が『受験対策』に矮小化され、真の意味での学力向上につながりません」との批判があがっています。
「多様化・特色づくり」は、学校現場での実情をふまえ、抜本的に見直すべきです。

「『大阪の教育力』向上プラン」は抜本的な見直しを
こうした過度の競争教育と序列化を進める「教育プラン」は、学校現場への押し付けをやめ抜本的に見直すべきです。子どもたちの成長・発達を保障するために、競争主義と序列主義の教育をあらためることが求められています。

●憲法と子どもの権利条約、教育の条理に立脚した教育へ
私たちは、府民の切実な教育要求を実現し、憲法と子どもの権利条約、教育の条理に立脚した教育への転換をすすめるために、つぎの内容での教育政策を提起します。

教育のすべての段階での教育費負担の軽減・無償化
教育のすべての段階での教育費負担を軽減・無償化、とくに高校と大学の学費無償化をはかること。就学援助制度の拡充、給付制奨学金制度の創設、私学授業料軽減助成の拡充。府立高校の空調使用料の徴収をやめること。希望するすべての子どもたちに高校教育の機会を保障することが大切です。

少人数学級の拡大をはじめ教育諸条件の整備・拡充
国の制度として少人数学級に踏み出すなど教育諸条件を整備・拡充すること。少人数学級を小学校全学年、中学、高校に拡げる。私学経常費助成の拡充、障害児学校の新設・整備の促進、障害児学級の充実、学校耐震化を推進する。学校での芸術鑑賞を拡充。府立大学の学部「再編」押し付けをやめ大学予算を増やし教育研究条件を充実する、大阪市立大学の大学予算を増やし夜間学部を存続させることなどが求められます。

世界でも異常な競争主義の教育を根本からあらためる
世界でも異常な競争主義と序列主義の教育を根本からあらため、学習指導要領の強制をはじめ教育内容への国家的統制や、教育行政による特定の教育内容・教育方法の学校現場への押し付けをやめること。憲法に保障された教育の自由・自主性を擁護し発展させることが大切です。「同和行政」「同和教育」の終結。学校現場への「日の丸・君が代」強制や教育をゆがめる教職員「評価・育成システム」はやめるべきです。

改悪教育基本法を抜本的に改定し、新しい教育基本法の策定へ
教育への国家的介入をすすめる憲法違反の改悪教育基本法を抜本的に改定し、憲法と子どもの権利条約に立脚し、国民の教育権、教育の自由と自主性を擁護・発展させる、新しい教育基本法策定への国民的・府民的合意の形成をはかることが大切です。このことは、大阪の教育の実情からみても切実です。

●子どもと教育をめぐる府民的討論と共同をさらに
 教育分野では、この間、教育研究集会や子どもの権利条約シンポジウムなどがおこなわれ、子どもと教育をめぐる府民的な討論と豊かな教育実践がレポート、交流されています。子どもたちがおかれている現実を見るとき、これらのとりくみのいっそうの発展が期待されます。
日本共産党は、府民・教育関係者のみなさんとともに教育要求実現の運動、子どもと教育をめぐる府民的討論と共同を促進するためにいっそう力をつくします。

こばやし・ひろかず 日本共産党大阪府委員会常任委員・文教委員会責任者

(「大阪民主新報」2010年1月10日付 )
 

投稿者 jcposaka : 2010年01月07日

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