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失敗した開発の繰り返し 財界と狙い一致 ワイド特集 なぜ府庁移転?ベイエリアに税金投入 大手前の再開発も狙う

2009年12月18日

 橋下徹知事が府庁のWTCへの移転に執念を燃やしています。府議会が知事の提案した庁舎移転条例案を否決したのはことし3月。なのに9月議会に同様の条例案を再提出、議会は再び否決しました。しかし、WTCのビル購入予算は、出直し知事選もチラつかせた知事が、議員個別に賛成を働きかけたこともあり可決され、府民からも疑問の声が上っています。利便性、コスト、防災機能など、多くの問題を抱えるWTC移転に、なぜ知事は、ここまで固執するのでしょうか。

利便性の悪化や災害対策も不向きで最悪の選択

 WTCがあるのは、現在の府庁から西へ10`の埋め立て地。移転は、警察や国機関が集積する地の利を捨て、梅田から地下鉄で30分、海底トンネルを通ってニュートラムに乗り換えるという利便性の悪化につながります。
 加えて、地震などでトンネルや橋が通過できなくなれば孤立し、職員の参集もままなりません。関係機関との連携にも支障をきたすなど、災害対策にも不向きです。
 移転コストが、現庁舎の耐震補強より高いことは知事も認めています。維持費、通勤費などのコストも増加します。現庁舎と周辺敷地の売却代金を移転に充てる計画で、想定の1平方b97万円で売却できなければ、資金不足に陥ります。
 WTCへの移転計画は、最悪の選択なのです。

まずW開発ありきWの構想で移転へまっしぐら

 関西経済連合会の秋山喜久会長(当時)は04年、大阪市役所をWTCに移し、跡地を民間開発する構想を示していました。
 さらに関西経済同友会は、橋下知事就任間もない昨年4月の知事への要望の中で、現庁舎周辺の「低利用地」状態を指摘。年間79億円もの損失だとして、解決のための計画を1年以内に示すよう迫りました。
 知事はこの後8月にWTCを訪れ、「ここしかない」と府庁移転を提案。跡地利用については、「官のプロジェクトは成功したためしがないので、民間に考えてもらったほうがいい」と発言。これは府庁移転で大手前を再開発し、移転先のベイエリアのインフラ整備を行政の力で進めるという財界の狙いと一致します。府民の暮らしよりもまず“開発ありき”なのです。

行き詰まった湾岸開発への税金投入計画

 WTCは、大阪市の埋め立て地に官民合わせて2兆2千億円をつぎ込む先端貿易拠点「テクノポート計画」の中核施設として建設されました。
 WTC周辺には、超高層ビルが林立する計画でしたが、バブル経済の崩壊で、伊藤忠、住友商事などが進出を見送り。未売却地や空き地のまま大企業が所有している土地が約22f広がります。
 着工から約20年、大阪市が1兆円近くもつぎ込んだのに民間の進出が進まず、平松邦夫市長は、計画の失敗を認めて昨年9月、終結を宣言したばかりです。
 知事は、このベイエリア開発が失敗した原因に、「咲洲地区が国土軸につながっていないというアクセスの問題」を挙げています。府庁移転とともに、鉄道・道路など、巨額投資が必要だというのです。
 府と大阪市、関西財界でつくる「夢洲・咲洲地区まちづくり推進協議会」は、事業費1千億円ともいうJR桜島線の延伸、なにわ筋線(4千億円)、高速道・淀川左岸線延伸部建設(4千億円)などを構想しています。
 失敗したベイエリア開発に、今度は府も巻き込んで、「兆」単位の税金を投入する構想です。
 ベイエリア開発が失敗したのは、庁舎がなかったからでも、インフラ整備が十分でなかったからでもありません。需要を大きく上回る過剰投資が原因です。だからWTCやATCへも入居が進まず破たんしたのです。

大企業は利益を増やす一方 府民の暮らしは悪化の一途

 大型開発を経済活性化の「起爆剤」とする手法の誤りは、すでに証明済みです。
 関西空港2期事業や大型開発に巨額の税金をつぎ込み、5兆円に及ぶ借金の原因をつくったことを、当時の太田房江知事はこう述べました。
 「(開発事業は)経済の下支えに役立った」
 しかし、90年からの10年間をみても、大阪経済の全国シェアは8・4%から7・6%へと下がり、「経済的地位」は低下しました。
 府内事業所は01年からの5年間に5万5千カ所以上減り、減少率は全国ワースト1の11・5%。労働者の賃金も下がりました。
 大型開発や大企業の業績回復は、府内中小商工業に恩恵をもたらさず、府民の収入も減り続けました(グラフ)。生活保護率は全国トップです。
 「府庁移転、まちづくりに協力を惜しまない」
と関西財界は言いますが、本社の東京移転、生産拠点の海外展開で、産業を空洞化、疲弊させたのはほかならない財界・大企業です。国内工場でも雇用の非正規への置き換えで「貧困と格差」を拡大したのです。

開発に失敗しても金融機関には巨額の利子収入

 関西空港対岸のりんくうタウンは、大和銀行(当時、現りそな銀行)が2棟の高層ビルを橋でつなぐゲートタワービル構想を提案するなど、関西財界も積極的にかかわりましたが、もうからないと判断すると相次いで撤退。
 一方、銀行は、利息・手数料で1700億円以上の利益を得ています。
 WTCの場合も同様です。04年の特定調停時点でWTC社が銀行に支払った利息は236億円。債権放棄額は137億円です。同社の会社更生法適用で、大阪市は437億円の損失補償、285億円の出資金の放棄など、733億円以上の支払い責任を背負います。
 銀行は、開発に失敗しても巨額の利益が転がり込む仕組みです。

大阪活性化、府民生活向上への方向に舵切りを

 WTCへの府庁移転は、交通網整備や大型開発などへの巨額の税金投入となり、過去の失敗の繰り返しになります。現庁舎を耐震補強し、大手前の街づくりを府民参加で考えるべきです。
 財界・大企業と一緒になって大型開発を進めるのでなく、行き過ぎた大企業優遇をやめ、労働法制抜本改正など雇用の破壊を食い止め、安心して働けるようにすること、府民の懐を温め、中小企業の活性化で、地域で経済が循環する仕組みを復活・充実することこそ、いま必要です。

大阪府・大阪市が進めた主な大型開発の大失敗

大阪市分
テクノポート大阪計画(国際情報都市と昼間人口20万人の新都心計画)
基本計画(1988年)の事業費は約2兆2000億円(公共部門・約9000億円、民間部門・約1兆3000億円)。呼び込み型開発として公共9300億円(大阪市民、家族4人で約140万円投資された事に)、民間3000億円投入し大失敗。2008年9月に大阪市が「終結宣言」をした

進められた主な事例

@ WTC
りんくうタウンゲートビルと高さを競い当初150mを256mに変更。そのため事業費が520億円から1193億円に膨れ上がり。市の部局を入居させ資金支援をしたが破綻。金融機関に対し損失補償437億円、市貸付金等の損失も入れると733億円を超える額が全て市民負担(4人家族で11万円余り)今後負担する事に

A ATC
アジア貿易拠点として建設。輸出入会社の入居が少なく、市部局の事業フロアとして支援したが破綻。金融機関に債権放棄をさせ経営を継続を保っているが退店が続けば破綻に(WTCから市部局が移転する事を望んでいる状態)

B ふれあい港館
78億円で建設。ワインミュージアムとしてワインを購入するも施設利用が少なく閉鎖。ワインも競売にかけられた

C テクノポート線
咲洲から此花区の新桜島駅(仮称)まで7.5qの地下鉄計画、事業費計画1140億円。444億円を投資するが夢咲トンネルに躯体(390億円)だけをつくり09年11月事業休止に

D スーパー中枢港湾
国際ハブ港として5万トン以上のコンテナ船に必要として夢洲に深さ15mの埠頭を3つ建設(770億円)。しかし大型船は減少傾向。貨物確保のために咲洲のコンテナ埠頭をフェリー乗り場に転化させ夢洲に貨物を集めようと苦肉の策を行っている

E USJ周辺土地区画整理事業
土地区画整理事業として整備したが、USJ北側駐車場が未売却で赤字が650億円。大阪市は平成47年まで赤字穴埋めの支援をする事に

大阪府分

りんくうタウン
事業費6058億円。計画の甘さから失敗、最終収支見込は1561億円に。さらに府は公園や府立大学などの用地取得に必要として一般財源を新たに投入している

ゲートタワービル
事業費659億円。りんくうタウンに連絡道・鉄道駅をはさむツインビルとして高さ256m。しかし入居は進まず1棟のみの完成。府が家賃補助や出資額255億円をつぎ込むが破綻。その上、ビルの購入した民間へ37億円の支援を行うはめになっている

泉佐野コスモポリス
事業費1100億円。「関西空港開港のインパクト」を当て込み、丘陵部にハイテク工業団地を造成。しかし企業誘致は失敗で88年破綻。結果、府は用地買戻し費用131億円や三セクへの貸付金99億円を放棄するなどで232億円を負担

箕面森町
事業費840億円。余野川ダム湖のほとりに住宅地をと造成。しかしダム建設も凍結され、全区画を売却しても750億円の赤字が予想される事態に。現在、保留地の売却益等で府の負担を605億円以内に抑えようという計画を進めている

関西空港2期
事業費1兆4200億円。09年2月現在、府の出資金合計は1001億円。今後の負担も約160億円にのぼる見込みである

投稿者 jcposaka : 2009年12月18日

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