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近畿原爆症訴訟大阪高裁判決 全員認定 新基準見直し全被爆者救え

2008年06月06日

 近畿原爆症認定集団訴訟の控訴審判決が5月30日、 大阪高等裁判所でありました。 井垣敏生裁判長は、 厚生労働省の控訴を全面棄却、 2年前の全員勝訴の1審判決を支持して原告9人全員を原爆症と認定しました。 仙台での勝利判決に続き、 4月からの新基準で積極的に認定されなかった人も含めての全員認定は、 新基準の不十分さをもあらためて浮き彫りにするものです。 裁判所前では、 全国から駆け付けた支援者らと原告、 弁護団の喜び合う姿がありました。

基準外で認定

 判決は、 厚労省が審査基準としてきたDS86 (日米の委員会による線量評価システム) やDS02の不備を厳しく指摘。 入市被爆者や遠距離被爆者、 内部被曝 (ひばく) などが考慮されず、 被曝線量が過小評価されているとして、 計算値を 「機械的に適用するのは相当でない」 と断罪。 被曝状況や急性症状の有無をはじめ、 被曝後の行動やその後の生活状況、 疾病などに至る経緯、 治療状況など、 全体的・総合的に判断する必要があると重ねて強調しています。
 その上で、 新基準以後も認定されていない5人の原告について個別に判断。 新基準で認定対象から外れていた甲状腺機能低下症などの疾病も放射性起因と認め、 原爆症と認定しました。
 国家賠償請求は棄却されました。

上告断念迫る

 中之島の中央公会堂で開かれた報告集会で、 藤原清吾弁護団長は、 「新基準をも批判する画期的な判決。 これを機に、 もう一度みんなの力を結集し、 本当の意味で、 被爆者に謝罪と国家補償をしろ、 国の責任を果たせという世論を起こして、 全国305人の原告の一括全面解決に向けて頑張ろう」 と呼び掛けました。
 フロアからも、 勝利判決への喜びとともに、 2次3次の訴訟勝利に向けた行動や核兵器廃絶への運動を進めるなど、 決意が相次ぎました。
 最後に、 弁護団幹事長の尾藤廣喜弁護士は、 「絶対に基準を変えさせなければなりません」 と力強く述べ、 国会前での座り込み行動への参加、 カンパなど、 上告期限の13日までに全国の力を東京に集中し、 全力を挙げて上告断念を国に迫るよう呼び掛けました。

「一生の喜び」 「全員認定まで頑張る」
原告 喜びと決意の会見

  「本当にうれしい。 体調が悪い中、 みんな頑張ってきました」。 記者会見でこう切り出したのは、 原告代表代理の木村民子さん (被曝当時8歳・広島) =大阪市城東区=です。 胃がんの摘出など病とたたかいながら、 紙切れ一枚で却下された悔しさと怒りを裁判にぶつけ、 認定制度改善と核兵器廃絶を国に訴え続けてきました。
  「3人の方が亡くなりましたが、 1人でも認定されなかったら喜べなかった。 いろんな方の支援のおかげです。 全国305人の原告がみんな認められるまで、 これからも頑張っていきたい」 と決意を語りました。
 新基準でも認定されなかった葛野須耶子さん (15歳・長崎) =神戸市=は、 「認定されるか不安だったけど、 全員そろって認定されて、 こんなうれしいことはありません」。 深谷日出子さん (18歳・広島) =兵庫県篠山市=も、 勝利への喜びを述べるとともに、 全員認定への思いを語りました。
 体調が悪い中、 車いすで参加した井上正巳さん (14歳・広島) =川西市=は、 「一生の喜び。 これで私たちの戦後がやってくると思っています」 と語り、 被爆者全員を認定すべきと強調しました。

国8連敗新基準の不備浮き彫り

 原爆訴訟は全国6地裁で原告が勝利し、 控訴審を含めると8連勝です。 厚生労働省はこの4月から 「新しい審査の方針」 (注) をスタートしましたが、 旧基準の 「原因確率論」 を基に距離や滞在時間に制限を設け、 病名も5疾患に制限しています。 305人の原告でも105人しか認定されていません。
 国は8度の司法判断を厳粛に受け止め、 再度認定基準を見直し、 原告全員の認定をはじめ、 25万人の被爆者救済に踏み出すべきです。 そして核兵器廃絶を切に願う被爆者の思いに心を寄せ、 被曝国日本として核兵器廃絶を世界に発信すべきです。
 被爆者に残された時間はわずかしかありません。 すでに49人の原告が亡くなり、 近畿では川崎紀嘉さん(19歳・広島)=岸和田市=、 甲斐常一さん (20歳・広島)=門真市=、佐伯俊昭さん(12歳・広島)=大阪市=が高裁判決を待たずに他界。 佐伯さんは申請から20年を経て原爆症と認定されましたが、 認定証を手にした直後の16日に喉頭腫瘍で亡くなっています。
 舛添要一厚労相は、 原告全員の認定と新基準見直しに対して消極的な態度を示していますが、 これは、 命を削りながらたたかう原告の思いを踏みにじるものです。 現在も、 上告断念を迫るため、 木村民子さんら原告を含め、 支援者、 弁護団が国会前で座り込み行動を展開しています。 国は、 戦後63年の今こそ、 被曝の実相と被爆者の人生を受け止め、 「上告やめよ」 「すべての被爆者認定を」 の声に応えるときです。      (P)
【注・新しい審査の方針】これまでの 「原因確率論」 を基準に、 原因確率が10%以上であれば認定。 原因確立が10%以下の場合、 積極的認定の範囲として、 爆心地から約3・5q以内で被曝 (ひばく) ▽原爆投下から約100時間以内に爆心地から約2q以内に入市▽約100時間経過後、 原爆投下から約2週間以内の期間に1週間程度以上滞在―に該当する者で、 固形がん、 白血病、 副甲状腺機能亢進(こうしん)症、 放射線白内障、 心筋梗塞 (こうそく) の5疾患が対象。 被該当者は個別に判断するが基準は不明。

投稿者 jcposaka : 2008年06月06日

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