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スキーバス事故 安全軽視もたらした規制緩和が背景に 

2007年03月11日

自交総連大阪地連・権田委員長に聞く

 2月18日の早朝、 吹田市の府道大阪中央環状線で、 スキー客を乗せた 「あずみ野観光バス」 (本社・長野県松川村) の大型観光バスが大阪モノレールの橋脚に激突。 16歳のアルバイト添乗員が死亡、 運転手と乗客23人が重軽傷を負いました。 この事故から見えた規制緩和や行政、 旅行業界の問題点などについて自交総連大阪地連の権田良正委員長に聞きました。

指摘してきた事態が現実のものに 

 私たちは、 2000年2月の規制緩和 (道路運送法の改定・貸切バスの需給調整規制の撤廃) を受けて、 バス部会が、 毎年のように近畿運輸局や大阪労働局に対し、 観光バス業界の法違反の実態を申告し、 改善、 指導しなければ大変な事態が起こると、 警告してきました。 それが実際のものになってしまい、 残念であると同時に私たち労働組合の非力さを痛感しています。
 今回の事故で驚いたのは、 事故を起こした運転手 (21) が、 昨年7月に大型2種免許を取得し、 初のスキーシーズンにワンマンで深夜バスを運転していたことです。 マスコミから連絡を受けたとき、 31歳の間違いではないかと思ったほどです。 事故を起こした運転手は最低年齢で取得していました。
 観光バス会社は普通21歳では採用しません。 たとえ2種免許を持ち、 5〜6年大型トラックを運転していたという経験があっても、 慎重に採用するし、 採用しても、 乗務するのは社内研修などの後です。
 事故を起こしたあずみ野観光バスは家族経営だから、 そうしたプロセスもなく、 いきなり、 経験もない社長の長男である運転手を乗務させました。 常識では考えられないことであぜんとしています。
 もう1つ問題なのは、 運転手の2人乗務が常識なのに、 深夜バスを1人で運転させていた事です。 その上この運転手は2月に入って1日しか休んでいません。
 そして、 新聞などで報道されていますが、 あずみ野観光バスは昨年6月、 長時間過重労働で長野県大町労基署から是正勧告を受け、 ことし2月5日には国土交通省長野運輸支局が監査に入っています。 その時、 法違反を確認し、 是正勧告しましたが、 是正されなかった。 法違反のいわば垂れ流し状態だったと言えます。

放置してきた行政と旅行業者の責任

 事故で一番責められるべきは観光バス会社だけど、 法違反を野放しにしてきた運輸行政と労働行政、 それから、 もうけ優先で無理な運行を強いていたと思われる旅行業者も共同の責任があります。
 さらに背景として重大な問題は、 00年2月1日から実施された貸切バス事業の規制緩和です。
 それまでは免許制だったのが許可制になり、 運賃は認可制から届出制になりました。 あずみ野観光バスも規制緩和後の同年7月に設立された新規参入事業者です。
 このような業者が一気に増え、 運賃競走が始まりました。 観光バスの総事業所数は99年に全国で2336業者あったのが、 04年には3743業者と、 約1400社、 1・6倍に急増し、 そのほとんどが今回のように、 安全意識が希薄と言わざるを得ない小規模事業者です。
 そして、 業界で生き残ろうと思えば運転手などの賃金・労働条件を下げざるを得ない。 正規の運転手は賃金が高いので、 嘱託とか契約、 派遣のような運転手を1日1万円とか8千円とかで乗務させています。 このように過当競争の行き着く先は、 賃金・労働条件の切り下げしかないのです。
 だから、 はっきり言ってこの規制緩和に賛成した自民、 公明、 民主各党の責任は本当に重大だと思っています。 人命を預かる業種の規制緩和はだめだ、 と一貫して反対したのは日本共産党だけでした。

ほとんどの運転手が居眠り運転経験

 もう1つ指摘したいのは、 旅行業者の横暴です。 運賃が届出制になったとはいえ、 貸切バスには運輸局が決め、 公示したキロ・時間あたりの上・下限を定めた基準運賃があります。
 しかし、 みんなこれを大幅に割って走っています。 旅行業者が下限割れ運賃を押し付けてくるのですが、 断れません。 そんなことしたら仕事が次からこなくなります。
 では観光バス会社はどこでもうけるのかというと、 賃金や整備費用の削減しかありません。 そして回りまわって運転手の労働条件が切り下げられ、 長時間労働で稼がないといけない。 無理を重ねることになります。
 事故後の2月末に、 大阪城の駐車場などで観光バス運転手16人から聞き取り調査をしたら、 「運転中に睡魔に襲われ、 居眠り運転した」 と答えたのは、 このうち14人と、 ほとんどの運転手が 「昼間、 夜間とも経験している」 と疲労の蓄積を訴えています。
 事故の原因を聞くと、 「経験不足」 「ワンマン運転」 を上げる人が多く、 その背景に 「規制緩和が影響している」 「会社が法律を守っていない」 「旅行業者の運賃設定が問題」 「ツアーバス旅行の企画に問題がある」 と答えています。

人命を預かる適正な料金設定が必要

 事故を防ぐには、 「夜間長距離などのMM (2マン運行) の順守」 が一番多く、 「安かろう悪かろうをやめてほしい」 「旅行業者も人の命を預っているという立場に立った適正な料金設定が必要」 「バス会社も教育を1番に考えなければならない」 など、 旅行業者の取締りを挙げる人も多くいました。
 国土交通省は昨年6月、 ツアーバス運行の適正化に向け、 長時間労働の禁止や最高速度の順守などを徹底すること。 そして、 自動車運転手の労働時間等の改善基準告示で、 ハンドル (運転) 時間は最長4時間で30分の休憩を取るとか、 最大の拘束時間は16時間、 仕事が終わって次の仕事にかかるまで8時間以上空けなさいとなっており、 これに反するような企画、 スケジュールを設定してはだめだと警告しましたが、 こんなものは守られていません。
 結局、 このような危険な業界にしたのは、 観光バス業者、 旅行業者、 そして、 是正勧告しても、 放置している行政であり、 過当競争によるルール崩壊、 安全輸送軽視の業界風土をもたらした政府の規制緩和なのです。

適正なルール下でサービス競争を 

 私たちは今回のような大事故を未然に防ぐため、 国土交通省と近畿運輸局に対し、 緊急申し入れを行いました。 申し入れは、 @すべてのバス事業者に法令順守の指導を行うA旅行業者に適正運賃への研修・指導徹底B厚生労働省・大阪労働局との相互通報制度を活用し、 違法違反の一掃に努めること  を求めています。
 適正なルールのもとで、 正しいサービス競争ができる業界にするため、 労働組合として声をあげ、 観光バスを含む旅行業界の実態を広く市民に知らせると同時に関係業界、 行政に働きかけていきたいと思います。


東京ディズニーランドなどへ向かう夜行バス

投稿者 jcposaka : 2007年03月11日

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