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憲法違反の危険な「調査」

2007年03月11日

競争徹底と国民の管理狙う全国いっせい学力テスト 
大阪教職員組合教文部長  田中 康寛

 文部科学省は、 来月4月24日、 全国のすべての小学6年生、 中学3年生を対象に 「全国学力・学習状況調査」 (全国一斉学力テスト) を実施しようとしています。 このテストには、 憲法改悪と一体に、 戦争する国づくり、 格差社会づくりをすすめる、 危険な2つのねらいがあります。

小・中学校が序列化され、 たいへんな競争と格差の教育に

 その第1は、 日本全国の子どもと学校をいっそう競争させ、 義務教育に格差と選別をもちこむことです。 そのため学校選択制とも結んでテスト結果を公表し、 各学校や自治体の序列化・ランク付けをすすめようとしています。
 しかし本当に学力実態を把握するためであれば、 全員調査をする必要はありません。 統計学的にも5〜6%程度の抽出調査で十分であり、 「学力世界一」 とされたフィンランドでは5%の学校を抽出して学力調査をおこなっています。
 また安倍政権がこのテストを実施するにあたって、 モデルとしたイギリスではすでに破たんし、 日本でも40年前に国民的な批判をあびて中止においこまれています。

子どもと国民の私生活情報が、 すべて奪われてしまう

 第2は、 戦争する人づくりにつながる、 国民の精神支配です。
 各学校にテストの実施マニュアルが届き、 重大な問題が明らかになりました。

なぜ個人名が必要なのか?  

 マニュアルでは、 学力調査の解答用紙および学習状況調査の回答用紙に、 学校名、 男女、 組、 出席番号、 名前を書かせることになっています。 しかし全国的な学力実態や学習状況を把握するためであれば、 子どもの個人名は必要ありません。 このことは昨年4月に大阪府が行った 「いっせい学力テスト」 が、 記名を求めず、 整理番号を付して実施していることからも明らかです。 記名をすることによって調査内容はすべて個人を特定できる個人情報となります。

「これが学力テスト?」 私生活に深く入りこむ調査項目   

  「学力テスト」 の中には、 92問にも及ぶ質問紙調査があります。 「自分は、 家の人から大切にされている」 「家には本が何冊くらいありますか」 「 (家の人と) 旅行に行きますか」 「何時ごろに起きますか」 「朝食を毎日食べている」 「一週間に何日学習塾に通っていますか」 「学習塾でどのような内容の勉強をしていますか」 (予備調査) など、 趣味や娯楽なども含む各家庭における私生活全般を問うものとなっています。 しかも質問紙は実施前日に各学校に配送されることになっており、 この内容は父母にはいっさい事前に知らされません。 これを子どもが記名して回答すると、 学力データに加え、 各家庭のプライバシーが丸ごと外に持ち出されることになります。     

個人情報が、 民間の受験産業に丸投げに   

 さらに調査結果は、 各学校がそのまま梱包して 「文部科学省が委託する民間機関」 として小学校は、 (株) ベネッセコーポレーション、 中学校は (株) NTTデータに送付されることになっています。 両社は調査結果の採点、 集計から分析にいたるまで、 すべての作業を委託されており、 各個人の分析データをはじめ、 日本全国の小学校6年生、 中学校3年生の個人情報と各家庭の私生活情報が、 民間の教育産業である両社とその委託をおこなった文部科学省に握られることになります。 ベネッセは 「進研ゼミ」 を事業の1つとする受験産業であり、 NTTデータは旺文社グループの企業と連携しており、 「濡れ手で粟」 で個人データを入手することになります。 これが5年、 10年と継続されていけば、 膨大な量にのぼる個人情報が蓄えられることになります。

憲法、 個人情報保護法の趣旨に違反
―国民の精神支配と利潤追求をねらう― 

 このように 「学力テスト」 そのものの問題に加えて、 国民の私生活全般を、 国家と特定企業がにぎり、 政策遂行や利潤追求に、 思いのまま利用するというきわめて危険な調査です。 そして国家が国民の私生活に介入してその自由を奪い、 直接支配するものであり、 憲法の国民主権原則、 そして第13条の個人の尊重・生命・自由・幸福追求の権利、 19条の思想及び良心の自由に反します。 さらに一方的に押しつけることは、 個人情報保護法の趣旨に違反します。

憲法改悪と一体の、 国民総動員をねらう

家庭生活の序列化・ランク付けへ   

 家庭調査の結果を、 学力調査と同様に扱えば、 「早起き市内1位○○中学校」 「朝食100%達成○○町」 など、 各学校や自治体ごとの序列化・ランク付けが可能になります。 そして記名によって、 各家庭にその責任を問うこともできます。 改悪教育基本法は、 その第10条で 「父母その他の保護者は、 子の教育について第一義的責任を有する」 として家庭の自己責任を強調し、 公共の末端としての 「家族・家庭」 をおしつけ、 国家が示す、 徳目を注入する場にしようとしています。

国家が、 家庭の暮らしや地域を支配する国民総動員へ    

 安倍首相の教育再生会議は、 「社会総がかりで教育再生を」 と強調し、 文部科学省はすでに、 国家主導の 「早寝早起き朝ごはん」 を国民運動と称して推進しています。 そこでは 「家庭における食事や睡眠などの乱れは、 個々の家庭や子どもの問題として見過ごすことなく、 社会全体の問題として地域による、 一丸となった取り組みが重要」 と主張し、 家庭の私生活に公然と介入し、 これを運動化しようとしています。 これは、 格差と貧困の広がりが各家庭の生活をきわめて困難な状況に陥れている下で、 国と行政の責任を国民の意識の問題にすり替え、 さらに国家の行うことに反抗しない従順な国民をつくろうとするものです。

憲法闘争と一体に、 幅広い国民的共同の力で、 廃止へ

 個人のプライバシーの尊重は、 憲法上の権利にかかわる重大な問題であり、 極めて慎重に取り扱われるべきものです。 それにもかかわらず今回の調査は、 国民がまったく知らない間に、 各家庭の中にまで土足で踏み込み、 これを侵害するものです。 この事実を広く知らせていけば、 政府・文科省は、 必ず国民の大きな怒りをあびることになります。 憲法改悪を許さないたたかいと一体に、 幅広い国民的共同を広げ、 全国一斉学力テストを廃止に追いこんでいきましょう。 (たなか・やすひろ)  

投稿者 jcposaka : 2007年03月11日

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