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大阪府「子ども条例」の動向と「子どもの権利条例」のあり方 《6面》

2007年01月20日

大阪府「子ども条例」の動向と「子どもの権利条例」のあり方

DCI大阪セクション代表委員柚木健一

広範な府民の意見を聞くパブリックコメントに

大阪府は昨年12月4日、「子ども条例(仮称)骨子案【概要】」(以下「骨子案」)と条例策定のためのパブリックコメントを07年1月3日締め切りで公表しました。「骨子案」の内容と手続きに関して問題点を指摘せざるを得ません。
まず、パブリックコメントの期間を年末年始の慌ただしい時期に、しかも府当局の休業期間を含めて設定したことです。パブリックコメントを募る意義は府民の意見を条例案に反映させることであるはずです。意見を聞く期間を不適切な時期に設けたということは、府側の府民世論軽視との批判を免れないでしょう。子どもの権利にかんする条例策定である以上、子どもの成長・発達にかかわる父母・学校はじめ子ども団体などの関係者に広く意見を聞く方策がとられなければなりません。また、子どもにも理解できる表現で子どもの意見も聞く手だてをとる必要があります。

「規範意識」を優先させる「骨子案」

日本において「子どもの権利条約」を94年5月に発効して以後、府県レベルでは高知県はじめ、多くの自治体で条例が制定されてきました。
大阪府も、「大阪府生活文化部次世代育成支援室少子対策課」が「大阪府子どもの権利についての条例検討会議事務局」を担当し、04年12月、「子どもの権利についての条例を考える懇話会」に続いて05年7月、「大阪府子どもの権利についての条例検討会議」を設置。会議の「検討のまとめ(提言)」に基づいて府は「骨子案」を作成しました。
ところで、「子どもの権利についての条例」として検討されてきたものが、「骨子案」では「子ども条例」に変更、「権利」の用語をあえて欠落させています。条例の基本精神であり背骨でもある子どもの「権利」を抜き去った重大な変更について、大阪府は府民への説明責任を果たす義務があります。
「骨子案」全体として、「社会(大人)の規範意識の低下」を理由に、大人の自覚を促し、子どもには「子ども自身も…社会のルールや仕組、他者の尊厳をまもる心を身につけ、自ら考え責任を持って行動する社会の一員であることを自覚すべきである」と、子どもに「責任と自覚ある行動」を迫り、府民に対して「自覚・責務・責任」などの「心がけ」・徳目を啓発する内容となっています。「骨子案」は、子どもの権利の内容や保障には触れず、検討会議でも議論になった「責務・責任よりも権利の優先を」との内容も反映していません。子どもの権利のための国連NGO「DCI大阪セクション」も再三にわたり「子ども固有の権利の保障」を盛り込むよう要求してきましたが、無視される結果となりました。

子どもの権利を明確に、平易な文章化を

「子どもの権利条例」である以上、子どもの意見が条例に書き込まれることや、子どもが理解できる平易な文章化が必要です。しかし「骨子案」は「心がけ」を迫る内容ですから抽象的で難解な表現になっており、また「子ども会議」での意見や要求などの子どもの声が反映されているとは読み取れません。因みに高知県の条例では「自分があるがままに愛される」「学ぶ権利」「自分の権利を知る」などのやさしい表現で書かれ、わたし達が訪れた岐阜県・多治見市、北海道・奈井江町などの条例も、子ども会議の意見や要求を盛り込み、生存・参加・学び・遊び・意見表明などの子ども固有の権利が明記されています。
大阪府条例においても、「子どもの権利条約」が示す、子どもの最善の利益(第3条)、生命、生存、発達の権利(第6条)意見表明権(第12条)などの「子ども固有の権利」の保障と普及の具体的方策を示すことが求められます。

行政責任を曖昧にした「骨子案」

また、「骨子案」は「5各主体の責務」として府、府民、保護者、学校などを同列に並べた上、府は「…努める」と府としての行政責任を曖昧にし、府民、保護者などに対しては「…なければならない」と責任を強要する表現になっています。
さらに、検討会議では部会まで設置され議論されてきた「子どもの権利救済の第3者機関」については全く触れずに捨象。さきに紹介した自治体の条例はいずれも、子どもの権利委員会や子ども会議の設置・子ども参加による施策の啓蒙・推進など、行政責任と子どもの権利救済に明確な態度を表明しています。

憲法と子どもの権利条約の精神を条例に

憲法が示す、個人の尊重・幸福追求の権利(13条)、生存権(25条)、教育を受ける権利(26条)などの国民の権利条項は、子どもの権利条約の精神と合致するものです。憲法を通して子どもの権利条約の精神を捉え、また逆に憲法を捉え直す双方向的な視点で子どもの権利に焦点を当てたとき、憲法と子どもの権利条約が反響しあい、子どもの権利はいっそう新鮮な輝きを増すでしょう。
憲法97条は「憲法が保障する基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」と謳い、民主主義と権利は人類のたたかいの歴史によって勝ちとられたと宣言しています。人類の歴史の貴重な遺産である「権利と最善の利益」を子ども達に保障し、安心・安全の成長・発達を遂げる子ども期を過ごす環境づくりこそが今、「社会(大人)」に求められている主要課題であり、行政はそこに視点を当てた施策をとるべきです。国連子どもの権利委員会が日本政府に対して2度に渡って「極度に競争的な教育制度が子どもをストレスにさらし、子どもの発達を妨げ、発達のゆがみをきたしている」と勧告した競争強化の教育制度と、それを生み出す国策と社会のひずみや崩れの構造に問題の所在があります。いじめや虐待の原因を「社会(大人)の規範意識の低下」に求めることは、行政の意図的な府民への責任転嫁であると指摘せざるを得ません。
子どもは、時には立ち止まり、時には失敗し、ぶつかりあい、「負」の面もあわせもちながら成長を遂げます。条例制定の目的は、このような子ども期を過ごすにふさわしい権利保障の施策推進をはかることにあります。大阪府にはこの立場に立った条例制定への真摯な姿勢が求められます。
(ゆうきけんいち)

投稿者 jcposaka : 2007年01月20日

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