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成果主義賃金と労働者の実態

2004年11月21日
日本共産党大阪府委員会労働部長 伊藤 定
大阪民主新報 2004年11月21日付
「広がる総無責任体制」「品質低下」労働者の団結で生計費原則の賃金制度確立を

 いま、 「成果主義賃金」 のでたらめさを告発した本が、 サラリーマンによく読まれています。 「しんぶん赤旗」 10月31日付 「主張」 ( 「こんな成果主義に未来はない」) が出されて以後、 日本共産党大阪府委員会に少なくない問い合わせが寄せられています。

 こうした背景のひとつは、 「成果主義賃金」 の仕事の成果評価をめぐって、 恣意的で不公平な評価が横行し、 労働者が不公平感と不満を強めていることがあります。

 労働政策研究・研修機構調査によると、 納得感が 「高まった」 1割、 「低下した」 3割となっています。 「nikkeibp.jp」 アンケートによると 「職場の士気が低下した」 37%、 「向上した」 が22%になっています。 また、 職場で 「自分または周囲にうつになった人がいる」 が4割を占めるなど、 むちゃくちゃな労働実態が浮き彫りになっています。

 この 「成果主義賃金」 導入は、 1995年に日経連 (現・日本経団連) が発表した 「新時代の 『日本経営』」 の中で、 「高賃金政策を廃止、 賃金体系の見直し、 年功型序列賃金を廃すること」 を打ち出したことが契機になっています。

 「成果主義賃金」のねらいは、 企業や当局が総人件費を抑制し、 企業が曖昧で恣意的な基準で評価をおこない、 労働者を競争させること、 しかも公然と賃下げの制度を持ち込むことにあります。 労働者は、 過密労働、 サービス残業を強いられ、 さらに実質的に労働者の権利が侵されるばかりか、 個別管理でバラバラに分断され、 団結できなくされ、 労働組合の弱体化にもつながっています。

深刻な影響

  「成果主義賃金」 が導入された、 いくつかの企業を見ると―。

 日本で初めて 「成果主義賃金」 体系を導入した富士通では、 最初から 「人件費を抑制する」 という枠組みで、 スーパーA10%、 A20%、 普通B50%、 目標未達成C15%〜20%と査定することがあらかじめ決まっているため、 「評価に納得できない」 という労働者が続出し、 「やる気を失っていった」のが現状です。また、 製品の品質の低下、 目標をやるために 「他社の製品を売る」 「メンテナンスの分野に矛盾がひろがり、 苦情が殺到」 するなど、 「社内総無責任体制」 になってきています。 富士通では 「見直し」 を打ち出しました。

 大阪の武田薬品では、 現場関係に 「成果主義賃金」 の矛盾もあり、 手直しのために格差の少ない職種別賃金導入と3割カットの賃下げを提案し、 職場からの総反撃をうけています。

 日立空調システムでは、 ことし6月から 「成果主義賃金」 が導入されましたが、 「年収500万円の労働者が100万円の減収になる」 (電機懇発行月刊誌 「からすむ」) ことが報告されています。 ここでは、 約80%の労働者が賃金の横滑りで、 賃金が上がるのはわずか7%。 13%の労働者が賃下げになり、 しかも主に50歳代の総合職で、 月最大6万円の賃下げです。 「子ども三人いるが、 一人しか大学に行かせるカネがない。 誰が大学に行くか三人で決めてくれといっている」 という話まで出るなど、 家庭生活に深刻な影響が出始めています。

企業から見直し論

 こうした職場の中で起きている共通点は、 「部下や後輩に仕事を教えない」 「パソコンでも自分のデーターは、 会社にいっさい残さず、 その労働者がいなければ仕事にならない」 「大量の不良品の出荷が問題になる」 「すぐ成果のでない仕事はさける」 などという、 企業にとっても大きな問題が発生しています。

 こうしたこともあって、 企業の側からも、 「成果主義賃金制度」 の見直しが言われるようになっています。 社団法人日本能率協会が10月19日にまとめた調査結果によると、 民間企業の7割以上が 「成果主義」 に基づく人事制度の見直しを検討していることがわかりました。 手直しの理由で最も多いのが、 「導入の 『目的』 や 『利点』 に呈する理解不足が響き、 当初ねらった効果をあげていない」 であり、 「成果主義になじまない職種や部門があることやチームワークの成果を個人の評価に還元するのが難しい」 でした。

公務職場での弊害

 ところがこのすでに破たんしつつある 「成果主義賃金」 を、 民間職場だけでなく公務職場にも導入しようとする動きが強まっています。

 教育職場では、 政府の 「教職員人事制度研究会」 が検討をすすめ、 「モラールアップにつながらないから、 在校年数、 経験年数による年功・過去の評価・人柄・性格など職務に直接つながらない要素はのぞかれるべきである」 として、 「学校、 グループ、 個人の目標設定。 項目、 方向、 実施者の確立」 「人事評価システムと給与上の処遇が連動することが必要」 としています。 朝日新聞10月4日付によると、 大阪府教育委員会は 「公立学校全教職員を対象に、 勤務評定をし、 給与に反映させる」 としています。

 こうした教育現場への 「成果主義賃金」 の導入は、 憲法改悪、 教育基本法改悪と連動させ、 学校教育への支配を強化し 「戦争をする国づくり」 へまっしぐらにすすもうというものです。

 公務員労働者の場合は、 政府は2001年12月に 「能力・成果主義賃金の導入」 を含む 「公務員制度改革大綱」 を閣議決定し、 2006年には、 一方的に新制度への移行をめざすことを決めています。

 現在の 「自治体行政の市場化」 ともいわれる現状の中で、 公務員労働者は、 当局の指示による目標を設定されているもとで、 評価を高めようとすると 「当局から指示されたことだけに集中し、 住民要求に耳を貸さなくなる」 おそれがでてきます。 本来の公務労働者としての仕事に誇りが持てなくなり、 「住民とかけ離れた行政」 の進行が懸念されています。

  「成果主義賃金」 導入とのたたかいでは、 ことし2月26日、 横浜地裁は、 「成果主義賃金」 によって労働者を降格した川崎市のメーカーに対して、 「成果主義賃金は、 原資は一部の従業員の犠牲によるものであり、 賃金の下がる人は、 一定の軽減・緩和が必要である」 とし、 降格の無効と差額賃金の支払いを命ずる判決を下しています。

労働者の団結を

 今、大事になっていることは、賃金は、賃金体系で上げるのではなく、労働者全体の団結した力で、賃上げ要求を出し、団体交渉で決めるという基本を明確にし、賃金の基本的な見方を堅持した「生計費原則」「同一労働同一賃金」の立場を取ることではないでしょうか。 「成果主義」 や人事評価システム制度に対しては、 原則的に反対すると同時に、 評価の基準と結果の開示原則の確立、 賃金や昇級、 昇格に連動させないたたかいが求められています。

 高橋伸夫・東京大学教授は著書 『虚妄の成果主義―日本型年功性の復活のすすめ』 で、 「日本型の人事システムの本質は、 給料で報いるシステムではなく、 次の仕事の内容で報いるシステムだということである。 …他方、 日本企業の賃金制度は動機づけのためというよりは、 生活費を保障する視点から賃金カーブが設計されてきた。 この両輪が日本の経済成長を支えてきたのである」 と指摘しています。

  「成果主義賃金」 は労働者だけでなく、 企業、 さらには日本経済にとっても未来はないのです。

投稿者 jcposaka : 2004年11月21日

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