政策・提言・声明

2012年03月28日

橋下徹大阪市長はいま何を明らかにすべきか――「思想調査」問題の解決のために

 橋下徹大阪市長の「業務命令」により実施された大阪市の全職員に対する「アンケート調査」は、大阪市役所のあり方にとって重大問題であるとともに、日本の民主主義に関わる重大問題です。大阪府労働委員会(府労委)は、大阪市(橋下市長ら)に対して、野村修也弁護士らの「凍結」措置にとどまらず、市の責任において調査の続行を差し控えるよう、異例の早さで勧告しました(2月22日)。

 日本共産党は、志位和夫委員長の記者会見(2月16日)、大阪府委員会のアピールの発表(2月24日)などで、今回のアンケートが、憲法に保障された思想・良心の自由と政治活動の自由を踏みにじり、労働組合の正当な活動を侵害する不当労働行為であるとともに、この調査の矛先が市職員にとどまらず、広く市民・府民、国民に向けられていることを指摘し、調査の完全中止とデータの即時廃棄を求めてきました。市議会において、北山良三市議団長が代表質問で、橋下市長に調査の違憲性・違法性の認識と府労委勧告への態度をただし(3月2日)、国会においても、山下よしき参議院議員が予算委員会で憲法と日本の民主主義に関わる問題として取り上げました(3月13日)。

 しかし、橋下市長は、「憲法違反ではない」と強弁し、「野村弁護士の“凍結”判断を尊重する」という態度にとどまり、みずからの責任で調査中止を表明していません。

 加えて新たに発覚した「市交通局リスト・捏造問題」にたいする大きな驚きと批判の声が沸き起こりつつあります。

 日本共産党大阪府委員会は、ここに「思想調査問題」を憲法と法令に則して速やかに解決するために何が必要か。橋下市長による論点もふまえて提起するものです。

 

1、憲法19条(思想・良心の自由の保障)に抵触・違反することは明白ではないか

アンケートは、「この2年間、特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせたり、街頭演説を聞いたりする活動も含む。)に参加したことがありますか」「特定の政治家に、投票するよう要請されたことはありますか」などを問い、「誘った人」「要請した人」「配布した人」は誰か、その氏名まで回答を求めています。これらは個々人の思想、政治信条、内心に踏み込む内容にほかなりません。しかも、それを橋下市長の自筆署名で「市長の業務命令」として、かつ正確に回答しない場合は処分の対象とする脅しで、回答を義務づけています。

 これにたいし、わが党の北山市議は「まさに思想調査であり、内心の自由を侵すもの」として、橋下市長の認識をただしました。

 橋下市長の答弁は、市役所の組織の健全かつ正常な労使関係を見極める目的があるなど、「一定の条件と必要性があるから、憲法19条に違反することはまったくない」というものでした。しかし、この答弁は大きな問題をはらんでいます。

調査の内容、方法自体の違憲性は市長も認めている

 ①橋下市長の答弁は、「目的など一定の条件と必要性があるから」と、「条件付きなら憲法19条に違反しない」というものです。

 しかし、この主張と論理によると、「一定の条件と必要性」がなければ、今回の調査内容と方法はそれ自体、憲法19条に抵触・違反する、「思想調査」にあたるという認識をもっていることになります。実際、橋下市長は「僕の趣味嗜好で思想調査をやっているわけではない」(2月22日付のマスコミ報道)と発言しています。これを取り上げた北山市議の質問に、橋下市長は「国語の文法の理解を」などとごまかしましたが、日本語では「思想調査はやっているが、趣味嗜好でやっているのではない」というのが正しい解釈であることは、議論の余地がありません。

 今回の調査の内容と方法が、「一定の条件と必要性」を考慮しなければ、それ自体としては憲法19条に違反、抵触するものと認識しているのかどうか、橋下市長はあらためて明らかにすべきです。もし、そうではないというなら、その根拠が示せるでしょうか。

 関連して、橋下市長は、「(今回の調査が思想調査というなら)すべてのアンケート調査は思想調査になってしまいます」と答弁しました。しかし、氏名を書かせ、思想信条にかかわる回答を義務づけ、すべての項目について回答しなければ処分を与える――こんな「アンケート調査」など他にないでしょう。

「一定の条件と必要性」があろうが、憲法違反に変わりはない

 ②さらに、橋下市長が主張するように、「一定の条件と必要性」があれば、今回の調査は「憲法19条違反」とならないのでしょうか。

 橋下市長は、第1に、市役所の組織の健全かつ正常な労使関係を見極める目的をあげ、調査を正当化しようとしています。

 わが党は、橋下市長も指摘するような「市役所のぐるみ選挙」や「労使の癒着」などただすべき実態があり、それらについてタブーを恐れず、法令と地方自治体の使命とあり方に照らして告発し、ただすべく闘ってきました。しかし、だからといって、こんな「思想調査」が許されるものではありません。

 北山市議への答弁で、橋下市長は、刑事訴訟法に基づく令状があれば、憲法19条違反と言われるような事柄の取り調べも許され、憲法違反にならないことを示しました。しかし、刑事事件の被疑者に対しても、その根拠、相当の事由があることを裁判所が認めた場合でなければならないほど、憲法19条の思想・良心の自由の保障は重要な権利なのです。しかも、刑事事件の被疑者であっても、憲法第38条で明確に規定されているように黙秘権が保障されており、今回の調査のように「答えられない」という項目のない調査を業務命令をもって強制することはできません。

 いったい橋下市長は、大阪市の全職員がすべて「被疑者」で、みずからには、裁判所の令状と同様の権限――憲法19条違反に当たる行為も許される権限が与えられていると考えているのでしょうか。

 しかも、調査項目は、「正常な労使関係」の見極めという「目的」とも何の関係のない項目、職員の思想信条・内心を回答させるものが多数あるのです。

 第2に、橋下市長は、「守秘義務がある」とか、「自分自身も回答内容を見ない」からと正当化しています。しかし、野村弁護士が守秘義務を守ろうと、橋下市長が内容を見なかろうと、「業務命令」で思想信条の表明を強制すること自体の違憲・違法性が薄くなるものではありません。

 しかも「特別チームだけが見る」「調査結果は統計的に使用するのみ」という橋下市長の答弁も、虚偽といわざるを得ません。橋下市長の自筆署名入りの「業務命令」文書で、「正確に回答がなされない場合は処分の対象」とされているのです。「統計的に使用するのみ」というのであれば、これはまったく虚偽の脅しだったというのでしょうか。

市民・府民に向けられた「思想調査」――この一事だけでもデータ廃棄を

 ③今回のアンケートでは、一般市民・府民、国民が市職員に街頭演説に誘い、自分の支持する候補者への投票を呼びかけ、紹介カードを渡していれば、その氏名が回答されることになります。したがって、わが党は、このアンケート調査の矛先が、広く市民・府民、国民に向けられていると批判しているのです。

 これを指摘した北山市議に対して、橋下市長は「僕は市民とか、どこの対象が、どこまでの範囲に及んでいたか詳細には知りません」としつつ、「なんら問題はない」と答弁しました。問題は、橋下市長が「詳細を知っていたかどうか」ではなく、職員に対する調査項目そのものが、市職員以外にも及ぶものになっていることです。この一事だけでも、直ちに調査を完全中止し、すべての回収データを廃棄するのが市長の当然の責任です。

2、府労働委員会の勧告に「従う」というのなら、市長みずからの責任で調査中止、データ廃棄、謝罪を

 橋下市長は、北山市議への答弁で「労働委員会の勧告には従います」と表明しました。しかし、橋下市長は、「従う」といいつつ、市(市長ら)の責任での調査続行の差し控えの措置をとることは拒否しました。こんなごまかしは許されません。

 第1に、府労委の勧告は、①組合加入の有無を問う項目など、過去の判例ないし命令例に照らし支配介入に該当するおそれのある項目が含まれているといわざるを得ない、②業務命令として回答が義務づけられ、処分の対象となり得ることが明記されており、救済命令を発する場合、救済の基礎が失われているおそれ、労使紛争が拡大するおそれがある、③したがって、調査チームが調査を当面の間凍結したからよしとすべきとの市答弁書の主張を退け、審査の実効確保の措置として、被申立人(大阪市=橋下市長ら)の責任において調査続行を差し控えるよう勧告するというものです。橋下市長は、勧告の結論をどう理解しているのでしょうか。

 第2に、橋下市長は、「野村特別顧問に包括的に調査を依頼したから、野村特別顧問の判断を尊重する、凍結との判断ならそのまま尊重するのが僕の責任であり判断」との答弁を繰りかえしています。しかし、この論理なら、もし、野村特別顧問が、調査を再開し、回答を開封・集計すると判断した場合、橋下市長はその判断を尊重する、つまり、府労委の勧告を踏みにじることになります。

 第3に、関連して、今回のアンケート調査の責任の帰属について、橋下市長はあらためて明確にする必要があります。

 今回の調査は、橋下市長の包括的委任にもとづいて、野村特別顧問が項目を作成して実施しているものとしています。しかし、市長の自筆署名入りで「市長の業務命令」として市の職員に回答を求めた文書が添付されており、そもそも特別顧問は任意の調査はできても、「業務命令」は出せません。橋下市長の言い方は、逃げ口上だと言わざるをえません。調査項目そのものも憲法と労働組合法などに抵触・違反するものですが、その方法も、業務命令は憲法と法令に抵触してはならないとする地方公務員法に違反するものです。

  以上の点にたち、橋下市長が府労委勧告に「従う」というのなら、野村特別顧問ではなく、みずからがきっぱりと中止し、データを即時廃棄するしかありません。

 わが党は、橋下市長の業務命令による今回の職員アンケート調査は、日本国憲法のもとでは、前代未聞の「思想調査」、憲法19条(思想・良心の自由)・21条(政治活動の自由)・28条(労働者の団結権)に対する極めて重大な侵害であり、大阪市政と市民にとっての重大問題であるとともに、日本全体の民主主義にとっての重大問題ととらえています。

  橋下市長が、アンケート調査の違憲・違法性を認識し、自らの責任において、直ちに調査の完全中止と回収データの廃棄を決断し、実行すること、こうした事態を引き起こした反省と謝罪を表明することは、大阪市政にとってもっとも重要な喫緊の課題です。

  橋下市長は、以上の諸点について誠実に自らの考えを明らかにし、憲法と法令に則して問題の解決に踏み出すべきことを、重ねて強く主張するものです。

 以上

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